中小企業の事業再生等に関するガイドラインとは? その概要とポイント

投稿日: 2022.05.19

生井 勲

生井 勲

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」とは

政府の成長戦略会議によって検討されてきた、「成長戦略実行計画」(令和3年6月18日)を受け、一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「中小企業の事業再生等に関する研究会」(座長:小林信明)が取りまとめたもので、中小企業者の事業再生・事業廃業に係る総合的な考え方や具体的な手続等に関するガイドラインである。これにより、中小企業者の維持・発展や事業再生等を後押しし、日本経済・地域経済の活性化に資するものとなることが期待されている。

本ガイドラインは、中小企業者の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者・金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生等に関する基本的な考え方を示すとともに、より迅速に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続である「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を定めたものである。

ガイドライン制定の経緯

企業が債務整理を行う場面において、いわゆる法的整理(民事再生・会社更生)と異なり、一般に私的整理は、仕入れ先などの取引債権者を巻き込むことなく、かつ密行的に行うことができるため、事業毀損のリスクを回避することができるメリットがある。その中でも、関係者に対する公平性・透明性を確保する観点から、一定の準則ないしルールを定め、それに従って行われる私的整理手続を準則型私的整理手続というが、とくに中小企業再生支援協議会の利用が増え、重要性が増していた。

しかし、こうした準則型私的整理手続については、従前より手続が厳格で柔軟性に欠ける場合があることや、手続に一定の時間を要すること等のデメリットもあった。そして、コロナ禍の中、多くの中小企業が政府による緊急融資等の支援策で資金繰りを確保できた一方、いわゆる過剰債務の問題が生じているとされ、「より迅速かつ柔軟に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう」新たな準則型私的整理手続の導入が望まれていた。

コロナ禍の出口を模索する企業が増える中、中小企業再生支援協議会による取組みだけでは、量的にも捌ききれなくなる恐れがあるという理由もあると思われる。中小企業再生支援協議会の取組みは一定の安定した実績を出せるようになってきたため、ここで蓄積したノウハウを民間にも開放し、事業再生に取り組むプレイヤーについて、質を担保しつつ量的にも十分な確保をしていく狙いがあった。なお、中小企業再生支援協議会は、一定の役割を終えたとして、令和4年4月に中小企業活性化協議会へと改組された。

そこで策定されたのが本ガイドラインであり、本ガイドラインは、次の2点を目的としている。

  1. 中小企業者の「平時」、「有事」、「事業再生計画成立後のフォローアップ」、各々の段階において、中小企業者、金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、中小企業者の事業再生等に関する基本的な考え方を示すこと。
  2. 令和2年以降に世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症による影響からの脱却も念頭に置きつつ、より迅速かつ柔軟に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続を定めること。

平時と有事における中小企業者と金融機関の役割

「平時」における役割

「平時」においては、中小企業と金融機関に求められる役割は次のように整理されている。

債務者である中小企業には、以下のことが求められている。

  1. 収益力の向上と財務基盤の強化
  2. 適時適切な情報開示等による経営の透明化確保
  3. 法人と経営者の資産等の分別管理

他方、債権者である金融機関に求められる事項は以下の通りである。

  1. 経営課題の把握・分析等
  2. 最適なソリューションの提案
  3. 中小企業者に対する誠実な対応

「有事」における役割

「有事」においては、中小企業と金融機関に求められる役割は次のように整理されている。

債務者である中小企業には、以下のことが求められている。

  1. 経営状況と財務状況の適時適切な開示等
  2. 本源的な収益力の回復に向けた取組み
  3. 事業再生計画の策定

他方、債権者である金融機関に求められる事項は以下の通りである。

  1. 事業再生計画の策定支援
  2. 専門家を活用した支援
  3. 有事における段階的な対応(㋑返済に関する条件緩和、㋺債務免除、㋩スポンサー支援、㋥事業廃止等)

本ガイドライン手続きの概要

本ガイドライン手続の流れ

本ガイドライン手続は、中小企業経営者が連帯保証責任を負う中小企業特性に従ったものとなっている。でまた、本ガイドラインにおいては、中小企業者のための私的整理手続として、中小企業者が事業再生を図る場合の手続(以下「再生型」という。)だけでなく、廃業を選択する場合の手続(以下「廃業型」という。)も定められており、各手続の流れは、以下のとおりである。

再生型のポイント

本ガイドライン手続は、2001(平成13)年に策定された私的整理に関するガイドラインの延長として作成されたものである。だが、私的整理ガイドラインは、大企業向けの側面が強い上に、主要債権者の果たす役割が大きく、実際の活用が進まなかった。その後、中小企業再生支援協議会において、支援協スキームが運用とともに固まっていき、ノウハウが蓄積されたため、こうしたノウハウを活用しつつ私的整理ガイドラインの後継として作成されたのが、本ガイドラインである。

私的整理ガイドラインと比較すると、本ガイドラインが中小企業者を対象としていることに加え、次の様な相違点がある。

廃業型のポイント

廃業型において注目すべきは、「清算価値がゼロであり、債務者の有する全ての財産を換価・処分しても、公租公課や労働債権等の優先する債権を弁済することにより金融債務に対する弁済をできない場合」においても、「金融債務の弁済がないにもかかわらず対象債権者にとっての経済合理性があることの説明、及びその調査報告」がなされたときには、「金融債務の弁済が全く行われない弁済計画案も排除されない」とされている点、つまりいわゆるゼロ円弁済が明文化されて認められている点である。

また、本ガイドラインと同日に策定・公表された、廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方では、「中小企業の廃業時に焦点を当て、中小企業の経営規律の確保に配慮しつつ、現行のガイドラインの趣旨・内容を明確化し、ガイドラインに基づく保証債務整理の進め方を整理するとともに、主たる債務者・保証人、対象債権者及び弁護士等の支援専門家について、中小企業の廃業時におけるガイドライン活用の観点から求められる対応」が示されており、特に経営者保証ガイドライン上、「保証人が対象債権者に対し、弁済する金額が無い弁済計画(いわゆるゼロ円弁済)」も許されうるとされている。

そのため、中小企業者やその経営者が廃業を望む場合において、必ずしも弁済原資が十分ではないときであっても、本ガイドラインや経営者保証に関するガイドラインに基づき、破産を回避しつつ廃業を果たすことが可能である。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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