リスケの出口戦略(2)

投稿日: 2021.06.02

生井 勲

生井 勲

2.合実計画・実抜計画

さて、本章はやや専門的なことについて述べます。前に書いたように、10年間の返済期間で完済できる収益力という目標値を念頭に置いておけば最低限は十分なのですが、金融機関交渉を始めると、金融機関と再生コンサルの間で、合実・実抜、ないし合実計画・実抜計画などという言葉が交わされるのを耳にすることがあるかも知れません。そこで、ここではこの用語についてごく簡単に触れておきたいと思います。難しいと感じる方は読み飛ばして頂いて結構です。

合実計画・実抜計画とは、「実現可能性の高い抜本的な経営改善計画」ないし「合理的かつ実現可能性の高い抜本的な経営改善計画」の略語です。経営改善計画とは、リスケなどの金融支援に際してその承認を要請するために作成する経営計画のことで、この合実・実抜という基準はこの計画に課される基準を表わしているのです。

前述したように、リスケ期間が終了した時点で、つまり経営改善計画が終了した時点で、10年間の返済期間で完済できる収益力というのが、金融機関が借換え正常化に合意する基準だということは述べました。しかし、借換え融資は現実には新規融資であり、金融機関が新規融資に応じるには、正確にはもっと厳しい要件があるのです。これをまとめたものが合実・実抜という基準であり、この基準に沿った経営改善計画であれば、金融機関の立場としてはリスケの要請を承認する理由がある、というわけです。

この基準は3つあり、その指標はそれぞれ(ⅰ)経常利益の黒字化までの期間、(ⅱ)実質債務超過の解消年数、(ⅲ)計画終了時点での要償還債務返済年数と呼びます。

それぞれ解説していきますが、(ⅰ)は簡単に理解できるでしょう。合実・実抜の基準では、経常利益の黒字化を3年以内に達成する計画でなければならない、と定められています。このことは逆に言えば、3年以内に黒字化が達成できないような計画ならば、金融機関はリスケに同意しない、ということを意味します。3年以上赤字が続く経営状態では資金ショートが起きかねませんから、同意できないというのは当然と言えば当然の条件です。

順番を前後して、(ⅲ)ですが、これが何度も繰り返している10年の返済期間で完済できる収益力を意味しています。要償還債務という聞き慣れない言葉ですが、簡単に言えば金融機関等に返済しなければならない借入金残高のことだと捉えて良いでしょう。ただし、専門家は、要償還債務という概念でやや細かく、借入金残高から現預金残高と運転資本(=売上債権+棚卸資産―仕入債務)を控除するなどの調整をします。借入金残高が仮に3億円でも、1億円の現預金があれば事実上は2億円の返済をすべきと考えられるからです。現預金残高だけでなく、上場企業株式など換金性の高い資産を差し引くこともあります。いずれにせよ、こうした債務の残高が計画終了時点の収益力を基準にして10年以内で完済できる値だ、ということが重要なのです。

計画終了時点での要償還債務返済年数=要償還債務÷フリーキャッシュフロー

それでは、ここで計画終了時点の収益力とは何でしょうか。これは前述したように計画最終年の当期純利益だと考えて頂いて構いません。また、やや詳細に考えるなら、減価償却費は資金流出しない費用ですから、それを加えた簡易キャッシュフロー(=当期純利益+減価償却費)という概念で捉えて下さい。しかし、やはりこれも専門家はやや難しく、フリーキャッシュフロー(FCF)という概念で把握します。当期純利益や簡易キャッシュフローという概念だと、たとえばそこから設備更新投資として流出するキャッシュフロー(投資キャッシュフローと言います)や運転資本の増減などが考慮されていないからです。それゆえ、専門家はFCF(=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)という概念を使うのです。

いずれにせよ、計画終了時点の要償還債務を計画終了時点のFCFで割ると、計画終了後、何年で完済できる収益力なのかが算出できます。この値が10年以内でなければならない、というのが(ⅲ)の基準なのです。専門家でなければ、借入金残高を当期純利益または簡易キャッシュフローで割って算出しても構いません。

さて、ここまでがこれまで述べてきたリスケに合意する要件になりますが、厳密に言うならば、もう一つ金融機関が重視している条件があります。それが(ⅱ)の実質債務超過の解消年数です。

またしても実質債務超過とは聞き慣れない用語ですが、皆さんは債務超過という言葉なら耳にしたことがあるでしょう。債務超過とは、貸借対照表の資産から負債を差しい引いた値がマイナスになることです。つまり、純資産(=資産-負債)がマイナスであることを意味します。

資産は会社の持っている財産、負債は借入など支払わなければならない金額のことを意味しますから、純資産がマイナスであるとは、会社の持っている全ての財産を換金したとしても全ての負債を支払うことは出来ず、どこかで支払が出来なくなってしまうことを意味するのです。したがって、こうした企業に銀行が融資をするのは大きなリスクを伴うことになります。万が一、会社が倒産に至ったとき、融資した資金は返ってこないからです。

それゆえ、債務超過の企業の要請する新規融資には、金融機関は難色を示すのが通常です。借換え融資は新規融資になるので、借換え正常化にあっても債務超過の状態で金融機関の合意を得るのは簡単ではありません。せめて、5年以内にその債務超過の状態を解消する計画でなければ承認できないというのが実抜の基準であり、10年以内というのが合実の基準です。

ただ、重要なのは、ここでは決算上の債務超過額ではなく、実質的な債務超過額を見て判断するというのが、(ⅱ)実質債務超過解消年数という基準です。

実質債務超過とは、会社の資産を実際に負債の返済に充てるために売却して換金したら幾らになるか、ということを調べて、その実際の資産額から負債額を差し引いて算出した純資産額のことを言います。たとえば、会社の資産に土地が含まれている場合、決算書には会計上のルールとして取得価額が記載されているはずですが、実際に売却したらそれと同額であることは稀でしょう。また、ゴルフ会員権などの証券には、実際にはゴルフ場が倒産して売却が不可能になっているケースもあります。こうした資産を、一つづつ実際に売却した場合の価格に置き直して資産額を求め、そこから実際の負債額を控除するのです。

こうして求められるのが実質債務超過額で、これを5年ないし10年以内で解消する計画でなければ承認できない、というのが(ⅱ)の意味です。

まとめましょう。合実・実抜の基準とは以下のものを指します。

① 経常利益の黒字化  3年以内
② 実質債務超過解消年数  5年ないし10年以内
③ 計画終了時点の要償還債務解消年数  10年以内

リスケ申立ての後に提出する経営改善計画は、この合実・実抜の基準を満たしていることが理想です。そうでなければリスケが認められないとは限りませんが、この基準を満たしていれば、リスケ期間を有効に過ごし、金融機関が必要と考える収益力基準、財務基準を満たしていることになるからです。

それでは、この3つの基準が満たせない場合、どのように対処すべきでしょうか。

そうしたケースでは暫定的な経営改善計画を策定するのが慣例になっています。3年程度の暫定計画を策定し、この計画終了時点で次に合実計画ないし実抜計画を策定するのです。無理に合実・実抜の計画を作るのではなく、3年程度の猶予期間をもらえるよう交渉するのです。3年後の暫定計画の終了時の収益力及び財務状態が、次に合実・実抜の計画を策定するのに可能な水準であると判断できれば、恐らくそのリスケ交渉は成立するでしょう。繰り返しますが、無理な計画を立てるのではなく、3年間の猶予期間を申請するべきです。

次回に続く

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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