リスケの出口戦略(5)

投稿日: 2021.06.22

生井 勲

生井 勲

5.債権放棄についての基本的な考え方

最後に債権放棄について簡単に述べます。ただし、債権放棄についてリスケジュールを申立てる際に知っておくべきことは多くありません。というのも、リスケは一時的な猶予があるにせよ、債務を最終的に完済することを前提にするものだからです。債権放棄は、収益力が一定の回復をみせるか、あるいはその確実な目途があるために事業継続の可能性はあるものの、それにもかかわらず債務の全額弁済が難しい際に採用される措置なので、根本的にフェーズが違うのです。

しかし、現実には過剰債務が酷いケースでは、リスケを申出るにせよ、最終的には債権放棄が不可欠であることが明白な場合もあります。また、リスケ期間中に収益力回復が見られたものの、借入金返済については、到底正常化の基準に達し得ないことが次第に明らかになってくるケースもあります。こうしたケースでは、リスケを申出る(リスケ契約をまき直す)ことをしつつも、債権放棄についても視野に入れなければならないでしょう。

そうしたケースのために、ここでは基本的な考え方と手法について簡単に解説します。

(a)連帯保証責任・株主責任・経営者責任

まず注意したいのは、債権放棄は借入金返済ができない状況が自他ともに認められることが前提となっているため、連帯保証責任・株主責任・経営者責任が確実に問われる、ということです。

最初に、連帯保証責任についてですが、例えば会社の借入金10億円の債務のうち9億円の債務について返済の目処がつかないために債務免除を申出るとすると、この9億円については連帯保証人、つまり社長に請求がなされることになります。この9億円の負債を支払える連帯保証人はいないでしょうから、会社が債務免除を受けるということは、すなわち社長が破産処理などを含めて個人資産による弁済をすることで、甚大な経済的損失を蒙ることを意味します。

もちろん、これは原則的な考え方であり、必ずしも社長個人の破産を伴うわけではありません。例外は少なくないと言うべきでしょう。しかし、これが基本的な考え方だということは念頭に置いておいて下さい。一番大切な点です。

さて、それはそれとして次に株主責任に移ります。債権放棄にいたる企業は債務超過であり、過剰債務ですから株価はゼロ円です。したがって、株式を売却してもゼロ円にしかならないわけで、その意味ですでに株主としての責任を取っていることになります。

しかし、株式には、そうした株式売買によって利得を得る権利の他に、株式会社の経営に携わる権利があります。この権利により、多くの中小企業の社長は、代表取締役というその地位を得ているわけですが、金融機関に債権放棄を求めると、株主責任としてその権利の第三者譲渡を要求されるケースが珍しくありません。つまり、社長をはじめとした経営陣は退陣し、第三者スポンサーに経営権を譲渡することで会社再建が目指されるのです。

もちろん、これも例外がないわけではありません。しかし、債権放棄を伴う案件では、多くのケースで自力再生を諦め、経営者は総退陣になるということは、事実として知っておく必要があります。

最後に経営者責任についてです。これは連帯保証責任や株主責任と比べるとかなり曖昧です。連帯保証人として例えば破産して私財を投入してしまえば、社長として追加して経営者責任を問われても、経済的には対処しようがありません。また、株主責任を取り、第三者に経営権を譲渡してしまえば、それ以上に大きな責任の取り方はありません。それゆえ、上記二つについて破産と第三者への経営権譲渡という解決を選択するのであれば、それ以上に経営者責任が追求されることはないというべきでしょう。

それゆえ、経営者責任とは、上記二つの責任の取り方について、破産や経営者総退陣とはならないケースにおいて、問われるものだといって良いでしょう。たとえば、連帯保証人である社長は破産せず、2000万円相当の自宅は所有を認めるものの、これ以上の責任を免除する、というような場合です。連帯保証責任の取り方として上記のことを債権者が認めたとしても、経営者責任を問う段階で自宅の換金による弁済をせよと主張するのであれば、意味がありません。したがって、仮に連帯保証責任として破産の免除と自宅所有を認めるのであれば、経営者責任としてもそれを認めるのが当然です。経営者責任とは、連帯保証責任と株主責任が問われた後に、再度その決定を確認するためにあるということになるのかも知れません。いずれにせよ、実際、こうした特別の措置をスムーズに実行するために、平成25年には経営者保証ガイドラインという規則が作られ、多くの運用実績があります。

しかし、こうした事柄には本項では触れません。基本的な考え方を知っていただくことが本項の目的だからです。原則となる考え方は、以上のように、経営者には極めて厳しいものです。

(b)債務免除額

次に、仮に債務免除を求めるとしてその上限額は幾らなのか、という点について簡単に解説します。もちろん、金融機関が債権放棄を認めてくれるなら、債務者企業にとって大きなアドヴァンテージになります。多くのケースで財務的には債務者企業がこれによって事業再生の出口を迎えるというのも事実です。

しかし、これをここで解説する理由は、債権放棄に応じられる額が少なく、債務免除がなされたとしても支払不能が残るケースがあるからです。つまり、債権放棄というとまるで伝家の宝刀のように捉える方がいますが、実際はそうとは限らない、ということを知ってもらいたいからです。これを知ることにより、逆に、債権放棄を出口とした事業計画ではどんな目標値を設定すべきなのか、知ることが出来るようになります。仮に債権放棄を目指したリスケ契約締結を望むのならば、そうした企業は是非とも知っておかなければならない知識です。

さて、金融機関が放棄する債権額には上限があります。放棄額は、その債権総額のうち不良債権として回収不能が明確な額がその上限となるのです。たとえば、銀行からの10億円の借入金のうち不動産抵当が付いている債権が7億円あったとします。さらに信用保証協会が保証を付けている債権が1億円あったとすると、銀行にとって不良債権は2億円(=10億-7億-1億)しかありません。それゆえ、銀行は最大でも2億円までの債権放棄しかできないのです。

これは経済合理性の概念からして当然のことです。銀行が債権放棄に応じず会社が破産すれば、不動産は換金され、抵当権者であった銀行が7億円回収できるからです。さらに信用保証協会の代位弁済が実行され、1億円が回収できます。ですから、あくまで大雑把な試算ですが、8億円が回収できるので、銀行の立場からすれば2億円以上の債権放棄に応じる理由はありません。会社を破産させた方が得だからです。

もちろん、会社側としては、信用保証協会が代位弁済することになる1億円の求償債務について、信用保証協会に債務免除を申出ることも可能です。しかし、求償債権を信用保証協会が放棄してくれたとしても、総額3億円が債務免除額の上限ということになります。つまり、仮に抵当に入れてある不動産を手放さないのであれば、7億円を返済しうる収益力が不可欠ということになります。もしも、その収益力がないならば、不動産は手放さなければならないでしょう。その不動産が事業用であれば代替手段が必要だし、代替手段がないならば事業継続は不可能です。

それゆえ、債権放棄があるからといって事業継続が可能であるとは限らないのです。債権放棄によって自力再生による事業継続を望むのであれば、債権放棄の上限額を知っておく必要があります。そして、上限額を除いた債務を完済しうる収益力が不可欠だという点も、合せて知っておかなければなりません。逆に、その収益力がなく事業継続の見込がないのに、銀行が債権放棄に応じることはあり得ません。その場合は、金融機関は逆に債権回収を強化し、倒産させてしまった方が良いからです。

(C)債権放棄を願い出る手段

債権放棄を実現する手段には、法的整理と私的整理とがあります。法的整理は、大きく分けると会社更生法の適用と民事再生法の適用とがありますが、前者は上場企業のような巨大企業向けなので、運用事例は僅かしかありません。中小企業の場合は民事再生を用いることになります。

法的整理は、金融機関など債権者と債務者企業とが直接話合って債務整理を進めるのではなく、裁判所に介入してもらって話合いを進める方法です。それゆえ、民事再生法に決められた手順に従って調整が進められることになります。債権放棄を願い出るからといって、債権者の妨害に遭うこともないので、その意味ではとても良い方法です。また、民事再生計画案の採決も、全債権者の同意ではなく、過半数の債権者の賛成と債権額で2分の一以上の同意が得られれば可決となるので、ハードルは下がります。債権放棄といえども、その可決要件を満たしさえすれば、反対を投じた債権者も従わざるを得ないので、非常に現実的です。

反対にデメリットとしては、裁判所が介入するため、裁判所によって債務者企業が民事再生手続きに入ったとの情報が公開されてしまう点があります。しかも、債務整理の対象となるのは、銀行など金融機関債権だけではなく、仕入企業など一般企業の売掛債権や未払債権も同様に扱われるので、世間的には倒産と報じられるのです。一般企業の債権も、金融機関と同様に債権放棄の対象となるわけですから、これは致し方ないというべきかもしれません。

しかし、裁判所が公正な手続きを担保しつつ、必要な強制力を発揮して債権放棄が実現できる点では、民事再生は極めて有力な手法です。事業再生における最終手段といっても良いものでしょう。

しかし、民事再生法にも注意点があります。1999年に民事再生法が公布されたときは、そもそも民事再生は、債務者である経営者本人が経営に携わりつつ再生を目指すためのスキームとしてありました。つまり、自主再生のスキームだったのです。これは、債権放棄が行なわれるにもかかわらず、経営者が交替せずに、社長として再生に係わり続けられることを意味します。その意味で、夢のようなものだと巷では言われていました。

しかし、現実には、経営者の退陣がなされないと言っても、資本注入などが必要な場合は少なくなく、そうしたケースでは既存の経営陣が残ったのでは出資者は大きなリスクに曝されることになります。また、実際に自主再生が成功したケースが多くなかったなどのことから、現在では民事再生案件の中心は自主再生ではなく、第三者スポンサーへの経営権譲渡を前提としたものに移りつつあります。第三者スポンサーへの経営権譲渡がなければ、その民事再生計画案は否決されることが多くなったのです。

これに対して、こうした債権放棄の手続きを銀行など債権者と債務者企業とが直接的に話合って実行していくことも出来ます。こうした裁判所の介入を要さない手続きを私的整理(または、任意整理)と言います。

私的整理のメリットは、債権者と債務者の直接の話合いが原則なので、第三者に対してその情報が公開されないことです。しかも、債務整理の対象債権を銀行など金融機関の債権に限定して行なうことも可能ですから、仕入企業などの一般企業の債権は保全したまま、債権放棄など債務整理を実行することができます。それゆえ、債権放棄の対象を銀行など金融機関債権に留め、事業価値の毀損を最小限に食い止めることができるのです。

しかし、最大のデメリットは、関係債権者の全ての賛成が必要なことです。強制力が働きませんから、銀行など関係債権者の同意が得られるよう、様々な工夫をしていかなければなりません。

例えば、一つは各都道府県に設置されている中小企業再生支援協議会を活用することです。これは、債務整理に関する手順について事前に定められた規則(協議会スキームと言います)に則ってそれを実行する行政組織なので、手続きの公正性が裁判所のように担保されているというメリットがあります。このため、銀行など債権者にとっては、債権放棄などの厳しい要求にも応じやすいのです。

また、再生ファンドなどが利用されることも珍しくありません。先の述べた例のように、10億円のうち3億円が債権放棄の対象となったとしても、残り7億円を10年かかって返済します、というのでは債権者の同意は得にくいでしょう。10年も掛かって返すなら、15年掛けても良いから全額返せと言われかねません。そこで、第三者スポンサーが必要なのです。第三者がこの債務者企業を7億円で買収し、その買収代金を債務者企業は金融機関の返済に充てるのです。一括返済ですから、金融機関は残りの3億円の債権放棄に応じやすくなります。適切な第三者スポンサーが見つからない場合、一時的に再生ファンドがその役割を担うことが有力です。これが債権放棄には再生ファンドの役割が重要になる理由です。しかし、再生ファンドが関与する場合でも、多くのケースで経営者総退陣が求められることは注意が必要です。

このように、私的整理では関係債権者全ての同意が必要となるので、様々な工夫がなされ、その組合わせも含めると無数といっても良いほどの手段があることになります。しかし、こうしたことは本項のテーマから外れますのでここでは述べません。以上で、リスケジュール申立てにあたって必要とされる出口についての知識は十分です。

次回に続く

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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