民事再生を薦められたらどうするか?

投稿日: 2020.12.13

生井 勲

生井 勲

経営危機に陥り、思い切って紹介された弁護士事務所に行ったら、民事再生を薦められたという経営者の話をよく耳にします。それでは、民事再生とはどんな再生手法なのでしょうか。

民事再生は、銀行など債権者との話合いに裁判所が介入して事業再生を目指す制度で、民事再生法という法律に則って行なわれます。民事再生を債務者企業が申立すると、裁判所は一時停止という強制措置を債務者に命じます。この命令により、金融機関や仕入先企業など債権者は、一時的に債務者企業に対する支払を請求できなくなります。このため、債務者企業は、買掛金や支払手形、借入金の返済を一時的に停止し、民事再生計画を作成することになるのです。また、同時に債務者企業の資産は保全され、社長の意思だけでは処分できなくなります。最終的に、この計画は債権者集会に図られて、債権者は合意を求められますが、可決には債権額で1/2以上の賛成、債権者数で過半数の賛成が必要となります。このスキームは裁判所の監督のもとに実行されるので、強制力があり、債権者といえどもこの手続きを妨害することは出来ません。

民事再生は、このように強制力が働くゆえにとても実効性があり、債務者企業にとっては心強いスキームであることは間違いないのですが、いくつか問題点があります。

  1. 裁判所を通じて民事再生が申立されたことが公表されること。
  2. 原則として、仕入先企業や銀行も含めたすべての債権者への支払が一時停止すること。
  3. 近年では株主及び経営者の交替を含む計画策定が有力となっていること。
  4. 多くの債務免除がある代わりに連帯保証責任が生じること。
  5. 事業用不動産以外の担保物件(社長の自宅等)は回収される可能性が高いこと。

民事再生は申立と同時に公表されますが、大事なのは、それが倒産として報道されることです。信用は完全に失われてしまうと言って良いでしょう。その理由は、銀行融資への弁済だけではなく、買掛金や支払手形など原則としてすべての債権が一時的に支払われなくなり、民事再生計画においてその弁済が計画されることになりますが、大部分の債権が放棄されざるを得なくなるためです。それゆえ、社会、つまり債権者からみれば、再生手続きであっても、それは倒産を意味しているのです。

また、債権放棄が行なわれるということは、株主責任・経営者責任・連帯保証責任が追及されることを意味しており、経営者は多くのケースでその立場に留まることが出来ません。元来、経営者がその立場を継続することが可能な法制度として民事再生法は作られましたが、近年では新たなスポンサーが株主となり、経営者を交替させる内容の計画でないと、債権者の合意が得られない場合が多くなっています。つまり、新たなスポンサーが債務者企業を引受けやすくするために債権放棄が行なわれるのですが、社長など経営者はその責任をすべて被らなければならないのです。民事再生では、多くのケースで社長個人の破産は免れますが、個人資産の多くを失うことを覚悟しなければなりません。事業継続に必要な事業用資産は、担保を外すためにスポンサーが買取りますが、社長の自宅などはその限りではありません。

したがって、民事再生という再生手段のデメリットは明白です。まず第一に、会社は倒産企業となり、信用が完全に失墜すること。同時に、借入のある金融機関はもちろんのこと、仕入先企業をはじめとした業界企業に多大な迷惑をかけることです。そして、この大きな責任ゆえに、第二に、社長職に留まれないばかりか、経営者個人の生活や財産も、破産を免れるケースは多いとはいえ、その多くが損害を被るということです。

逆に、メリットもはっきりしています。スポンサーが見つかりさえすれば、裁判所の監督の下に強制的に手続きが進められますから、多くのケースで民事再生は成立します。成立しない場合、民事再生スキームは自動的に破産に移行することになっているので、そうなれば債権者は、スポンサーが債務者企業の買取のために準備した金額を失ってしまうからです。

とくにプレパッケージ型民事再生といって、申立て時点でスポンサー候補の選定を済ませておく手法がありますが、有力企業にスポンサーに事前になってもらって申立てできれば、事実上の倒産というイメージはなくなるし、実際のところ、債権者にかける迷惑も軽減する可能性があります。つまり、プレパッケージ型民事再生は、民事再生のデメリットがかなり軽減できるため、きわめて有力な手段だと言えるのです。ただし、事前にスポンサー選定を終えておかなければならないので、その公正さを保つためにお台場アプローチと呼ばれる要件を備えなければならないなど、法的にはセンシティヴな面があります。しかし、いずれにせよ、スポンサーを見つけることが民事再生を成立させるに当たっては、とても重要なポイントであり、これが可能なら裁判所の監督下で強制的に再生に向けた手順が実行されるという点がメリットと言えます。

さて、民事再生の特長を、ここまでの説明でご理解頂けたでしょうか。紹介してもらった弁護士事務所にあなたが薦められた民事再生とは、このようなメリット・デメリットを持つものです。決意は固まったでしょうか。

最後に一つだけアドバイスさせて頂きます。

民事再生は、裁判所の介入を前提とした法的整理と呼ばれる手法ですが、事業再生には任意整理(私的整理)というもっと柔軟な手段があります。これは裁判所が介入しないため強制力がありませんが、金融機関との話合いによって債務整理を行なうもので、仕入先企業をはじめとした業界企業に秘密にしながら再生を目指すことが可能です。これにも、リスケをはじめとした初期的な手段から、事業再生ADRや中小企業再生支援協議会を利用した抜本再生まで多種多様な手段がありますが、債務者企業のためにも、経営者個人のためにも、まずはこうした手段を検討すべきだというのが、アドバイスしたいことです。民事再生は最終手段だと考えた方が良いのです。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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