事業再生にはどのくらい時間がかかるのか

投稿日: 2020.12.13

生井 勲

生井 勲

ときどき会社を再建するには、どのくらい時間がかかるものなのでしょうか、という質問を頂くことがあります。たしかに頑張るにしてもどのくらいの期間がかかるのか、とくに高齢の経営者であれば自分の代で完了できるものなのかどうかは、会社経営の目的、事業再生のゴールを何に設定するかに関わる重要な問題です。

しかし、この問題に答えるのは容易ではありません。なぜなら、期間を定めるには、どんな状態が起点であり、どんな状態が終点なのか決める必要がありますが、そのどちらもが曖昧だからです。経営悪化とは病気に似ていて、本人、つまり経営者の知らぬうちに始まっていることが多いのです。また、終点も同様です。もう再生したと安心しても、そうした会社は他の会社と比べて著しく体力が乏しいため、ちょっとした出来事で経営危機がぶり返してくることも稀ではありません。

また、第二に、採用する事業再生の手法によっても、かかる時間が変わってきます。ですが、これは事業再生のゴールに関わる問題でもあります。たとえば、社長本人がその職に留まって会社を再建することを諦めて、第三者のスポンサーの力を借りて再生するケースでは、一般に、社長本人が指揮を執る自力再生に比べて、スピード感があります。他力再生では、スポンサーの財務力や人材力を活用することが可能なので、会社再建は素早く行なわれる可能性が高いのですが、こうした手法を採用するためには、例外もありますが、事業再生のゴール設定として社長退陣がほぼ不可避となります。

最後に、現時点で置かれている会社の経営状況によっても、かかる時間は変わってきます。病気と同様で、症状が重いほど時間がかかるのが普通だと言って良いでしょう。以下では、第三の観点に絞って、事業再生にかかる時間について概説することにします。

経営悪化の症状には、大きく分けて三つのケースがあります。つまり、BSは毀損しているがPLは傷ついていないケース、逆にPLは悪化しているがBSは無傷であるケース、最後にBSとPLのいずれもが悪くなってしまっているケースです。これらは、厳密には、実態ベースで考えなければなりませんが、専門知識が必要なので、ひとまず決算書ベースで、BSが悪いのは債務超過、PLが悪いのは経常損失と考えて下さい。もちろん、債務超過もしくは経常損失の金額が大きいほど、悪化の度合いは大きく、事業再生には時間がかかる可能性が高いといことになります。

一般に、PL改善は時間がかかり、BS改善はそれよりも短期間で済む、という傾向があります。というのも、PL改善は、多くのケースで、会社が自力で改善に臨まなければならないため、時間がかかるのです。経営危機に瀕している会社は、財務的な体力が弱く、新規事業や大きな設備投資が困難な傾向があります。また、たとえ財務力があったとしても、人材育成を軽視してきた会社が多く、そのツケが溜まっています。新規事業や設備投資などを行なう財務力があっても、そのオペレーションを任せる中間管理職がいないのです。このため、PL改善は思うように進まず、時間がかかればかかるほど当初想定していなかった事態に陥るリスクも高くなり、右往左往することが多い、というのが実態です。また、単に黒字転換するだけではなく、事業規模に相応しい利益額を上げるところまで収益力回復をさせるべきとするなら、最短のケースでも2年、通常は4,5年かかると思って良いでしょう。

これに対し、BS改善は、新規融資をはじめとした銀行などの金融支援によって行なわれることもあり、その場合では半年から1年半ぐらいで完了します。つまり、会社の収益力からすれば事業継続は出来るのですが、債務超過がひどいケースでは、DDSや第二会社など金融機関の助力を得て会社を再建することがあるため、こうした場合では金融機関の合意を得るための時間が必要なだけだからです。ただし、DDSのように債務が継続・維持される場合はともかく、金融機関の債権放棄を伴うケースでは経営者交代が必要となるのが原則だと言って良いでしょう。経営者の家族等に後継者がいない場合は、社内、もしくは社外にスポンサーを探す必要が出てくるので、後継者育成やスポンサー探索にかかる時間が別に必要となります。

こうした抜本的な金融支援を受けずにBS改善を行なうためには、毎年産出した剰余利益を用いていくことになりますから、相応の期間がかかります。僅かな債務超過であれば短期間で済みますが、膨大な債務超過であればかなり長期に及ぶと思った方が良いでしょう。つまり、PLが悪化している場合は、十分な利益を産出するところまで収益力を回復させるのに時間がかかり、さらにその利益でBSを改善させるのに時間がかかる、ということになります。こうした場合では、PL改善に始まってBS改善が完了するまで、10年かかる場合もあるし、15年かかるケースもあります。

このように、事業再生は、症状が重くなればなるほど、途方がないと言っても良いほどの時間がかかるものであり、それを短期で済まそうとすると、スポンサーが必要になったり、あるいは、社長交代が、つまり例外はあるとはいえ、株主責任や経営者責任、連帯保証責任を軽減しつつそれらに対処することが必要になってきます。こうしたことを回避するためには、早期発見・早期治療の原則を守るしかありません。とくに、目先の赤字決算を軽視しないことが大切でしょう。事業再生の起点がつねに曖昧だということは、そうした日々の心掛けの重要性を物語るものです。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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