事業再生コンサルとはどんな人たちか?

投稿日: 2020.12.13

生井 勲

生井 勲

中小企業の事業再生に携わっているというアドバイザーやコンサルは珍しくありません。しかし、事業再生という仕事は、企業が陥っている状況によって多種多様な再生手法があり、特定の偏った手法のみしか経験がないアドバイザーやコンサルだと、サービスを提供する上で十分な知見を有していない恐れがあります。

たとえば、「民事再生の専門家です」などというコンサルは、民事再生スキームの実行手順には詳しくても、民事再生が他の数ある再生手法と比べてどんなメリット・デメリットがあり、どんな状況においてそのメリットが活かされ、デメリットが大きく発生してしまうかはよく知らない可能性があります。こうした例は一部の弁護士にありがちですが、彼らは民事再生の法律上の手続きを熟知しているだけで、事業再生そのものは知らないのです。だから、どんな状況で民事再生という手法を選択すべきか知らず、窮境に陥って相談に来た経営者に対して、初対面でよく状況を調査していないにもかかわらず、「民事再生しか手段がありません」などと断言してしまうのです。

もちろん、弁護士の中にも、事業再生のプロフェッショナルはたくさんいます。こうした人たちは民事再生を選択する前に必ず私的整理を検討すると言って良いでしょう。つまり、様々な再生手法の経験があり、それぞれのメリット・デメリットを理解しているために、その状況に適した手法を選択しようとするのです。つまり、特定の手法の手順だけでなく、事業再生というものが、その状況に応じてどんな困難にさらされるのか、それに対応するためにはどんな手法を選択するのが良いか知っているのです。だから、そうした手段のうち幾つかを選択肢として提示してくれるはずです。

民事再生に偏った経験しか持たないケースが弁護士に多いとすると、たとえば税理士や中小企業診断士にはリスケジュールしか経験したことがない、そのための経営改善計画しか作ったことがない、という人が多くいます。もちろん、すべての税理士や中小企業診断士がそうではありませんが、重要なのは、こうした特定の再生手法に偏ったアドバイザーやコンサルは、その手法すら実はよく知ってない、という点なのです。

たとえば、リスケのための経営改善計画しか知らないというコンサルは、リスケジュールについて、例えば会社の売却と比べてどんなメリット・デメリットがあるか、したがって、相談に来た企業や経営者がどんな状況にあるときに選択すべき手法なのか、よく知っていない可能性が高いのです。それゆえ、こうしたコンサルにリスケを依頼しても、そのメリットを十分に活かした支援は期待できないでしょう。また、第二に、会社や経営者が置かれた状況が変化し、リスケジュールだけでは再生困難に陥ったとき、こうしたコンサルは代替サービスを持ちません。それどころか、リスケでは対処が出来ない状態になりつつあることを察知することすら彼らには難しいかもしれません。そうした状況に対処した経験が乏しいからです。

念のため注意しますが、窮境に陥っている会社は、一般の企業に比べて体力が乏しく、ちょっとした出来事で大きく状況が変わりうるものだ、という点は経営者として覚悟をしておくべきでしょう。金融機関の人事異動、社内の退職者、顧客企業や仕入企業の態度変更など、健全な企業であれば対応可能な事態でも、こうした会社にとっては命運を決するものに発展することも珍しくありません。こうした状況変化に適切に対応するためにも、事業再生コンサルには多種多様な知見が不可欠です。

最悪のアドバイザーやコンサルは、金融機関から紹介されたコンサル会社にありがちですが、そうした中には、銀行が稟議を挙げやすい経営改善計画を作成する能力しか持たない集団があります。彼らは、会社や経営者が置かれた状況を把握する能力が乏しく、最小限のコンサル能力すらないケースが少なくありません。

では、最小限のコンサル能力とはどんなものでしょうか。

まず、社長であるあなたの主観で構いません。話しやすいかどうか、コミュニケーションがとれるかどうかが最も重要です。コミュニケーションがとれない人は、アドバイザーないしコンサルとして最低限のスキルがないと判断してまず間違いないからです。次に、十分な調査もない初対面で、「債務免除してもらわなければ会社は潰れてしまう」とか「民事再生しか手段は残されていません」などと抜本的な再生手段の選択を強要してくるケースにも注意が必要です。リスケなど暫定的な手段ならともかく、民事再生などといった法的整理や、私的整理でも債権放棄を伴う手段は、社長個人の株主責任や経営者責任、連帯保証責任が問われるものであり、会社の状況ばかりではなく、経営者や家族の状況を知らない段階で安易に提案できるものではありません。

中小企業の事業再生は、会社の再建を目指すものですが、経営者の生活や財産の保全も大切なテーマとなります。また、銀行や顧客企業、仕入先企業、従業員などのステークホルダーにも重要な利害を及ぼします。それは会社の命運だけではなく、様々なステークホルダーに,とくに経営者個人やその家族に、大きな影響を与えかねないものだという点を確認した上で、事業再生コンサルと称する人たちと面談をしていくのが良いと思われます。そして、こうした複雑でセンシティヴな事柄について相談に乗ってもらうためには、最低限のコンサル能力、つまり依頼者である社長からみて話しやすく、コミュニケーションの図れる能力を保有する方である必要があります。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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