銀行に経営改善計画を作れと言われたら

投稿日: 2020.12.13

生井 勲

生井 勲

金融機関にリスケジュールを申出ると、経営改善計画を作れと言われることがあります。かつて金融円滑化法があった当時は、リスケを申出ると暫定的に元本返済が停止し、その後作成する経営改善計画を銀行が承認することにより、正式なリスケ契約が締結されるという流れが一般的で、これが今でも踏襲されていることが多いためです。したがって、少なくともそうした法的スキームがあった当時は、リスケをするならば経営改善計画策定は必須だったと言っても良いでしょう。

もっとも経営改善計画策定はリスケジュールのためだけに行なうものではありません。リスケの他にも、普通だったら困難な融資の実行やDDS、第二会社、債権放棄に至るまで、銀行が事業再生のために行なう様々な金融支援策を企業側から依頼するために、経営改善計画を策定します。つまり、経営改善計画策定は、金融機関からの金融支援を獲得する目的で行なうものなのです。

経営改善計画は、金融支援策と引き換えに行なう企業側の行動計画を含みますから、虚偽を記載するわけにはいきません。役員報酬削減をはじめ、場合によっては担保処分など経営者にとっては厳しい内容を含むことがあります。それらの行動計画はモニタリングと言って、金融機関への定期的な報告を伴いますから、実行するつもりのない虚偽記載はそもそも不可能だし、それにもかかわらず記載するなら詐欺同然です。

しかし、考えて下さい。虚偽記載はあり得ないとしても、経営改善計画には会社の将来像や実行構想の全てを記載しなければならないものなのでしょうか。この点は重要なので、社長としては予め理解しておく必要があるでしょう。

モニタリングでは、一般に経営改善計画の達成率として80%以上が求められます。役員報酬削減などは当然ながら100%の達成が必須ですが、売上目標や粗利目標、営業利益目標、経常利益目標、当期純利益目標などはすべて80%以上の達成率が必要です。ですから、計画数値を上回りそうな好材料があったとしても、経営改善計画には全部は記載せず、金融機関には黙っておくのが普通なのです。達成率が80%を下回ると金融機関の追及が厳しくなることがありますが、これを回避するためにも好材料は全部は記載しないのが普通です。つまり、経営改善計画は、事業再生を目的としてそのプロセスやプランを網羅的に記載するというよりは、その目的を達成するために金融機関との交渉を有利に運ぶためのものという意味合いが強いのです。それゆえ、経営改善計画とは別に、社内用の計画を同時に素描しておく例も少なくありません。

モニタリング対策ばかりではありません。経営上の目的であっても、未確定なものを早い段階から金融機関に告げているのは負担ばかりがかかってあまり得策とは言えません。たとえば、事業再生のゴールとして自分は引退して息子に社長職を継がせるという構想を抱いている例は少なくはありませんが、あまり早い時点でこうしたことを銀行に告げると、銀行は、社長交代の理由や息子の信用をうるさく詮索したり、挙げ句の果ては連帯保証人になることを求められるなど、経営にとっては余計な負担が増えてしまったりすることも心配です。会社経営には目的があり、事業再生にはゴール設定が不可欠ですが、これを経営改善計画にありのまま記載して金融機関に告げるのが適当かというと、微妙なケースが少なくないものです。経営の目的や事業再生のゴールはひとまず横に置いておき、記載の中心事項は、それを実現するための作戦、つまり経営戦略を行動計画と数値計画とに落とし込んだ内容に絞るのが良いでしょう。

経営改善計画には、逆に、通常の事業計画にはないのに、記載しなければならない必須項目があります。「金融支援の要請」という項目は銀行に依頼する支援策をまとめたページなので必須なのは当然ですが、他にも「窮境要因の特定およびその除去」「モニタリング」の他に、「経営者責任」「株主責任」「連帯保証責任」などのページが必要となる場合があります。窮境要因とは、会社の経営が危機に瀕することになった要因のことで、これをきちんと特定し、取り除くことで経営安定化を図るという意味です。経営改善計画の骨子、つまり経営戦略となる部分なので、入念に検討する必要があります。たとえ資金繰りが一時的に回復しても、窮境要因が取り除かれていなければ根本的には経営は改善しないからです。

他にも、金融機関は、経常黒字化や実態債務超過の解消までにどれだけの期間がかかるか、計画終了時点で金融機関債務がどれだけ残るかなどの指標に注目するので、そうした内容はわかりやすく記載しなければなりません。

しかし、いずれにしても、経営改善計画を策定するに当たって重要なのは、必要事項は明確にしなければならない反面、そうでないものは記載しなくても良いという点です。これは、記載しないことは検討しなくて良い、と言うことではありません。記載しないからといって経営の目的や事業再生のゴールを確認せずに、その目的と齟齬を生じるような戦略や計画を策定しても、かえってその後の経営が困難になるばかりです。いったん経営改善計画が承認されたならば、モニタリングが必須となるのでその後の実際の経営と大きな齟齬が生じるようなことは避けたいのです。つまり、会社経営全般について、経営改善計画を作成する段階で、予め検討をしておくことが大切だと言えるでしょう。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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