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借換えに借換えを繰り返して資金繰りをつないできたが、友人の社長から「リスケという手段もあるよ」とか、借入のある銀行から「リスケジュールもやむを得ないと思います」とか、リスケを薦めらることがあります。そのとき、社長のあなたはどうしますか。
結論から言えば、友人のアドバイスはともかくとしても、借入のある金融機関、特にメイン行からの薦めであれば、リスケするのが良いでしょう。メイン行がそう薦めてきたときは、銀行側としてはもうこれ以上の借換え融資や追加融資には応じられないと考えているからです。メイン行が応じてくれなくなった融資に下位行が応じてくれる可能性は高くないし、仮に応じてくれたとしても、これまでのように長期間資金繰りをつないで行くのは難しいでしょう。
しかし、それでもあなたの心が固まらない理由は何でしょうか。銀行にリスケの申出に行ったら何が起きるのでしょうか。リスケジュールは経営にとって大きな決断です。事前に起きること、起きないことを明確にしておきたいものです。
まず、金融機関にリスケの申出をすると、一時停止という措置が生じます。これは、借入金の返済を暫定的にストップするという意味で、また弁済だけでなく、追加担保の要求や金利の変更、担保権の実行、仮差押え・差押えなどを行なってはならない、ということを意味しています。しかし、注意しなければならないのは、これは私的整理をどのように行なっていくかについて定めた私的整理ガイドラインなどといった法に準じて行なわれるもので(実際の手続きは私的整理ガイドラインに則って行なわれるわけではなくても、これを参考にして手続きを進めるケースが多くあり、又これ以外の法に準じる場合でも、私的整理ガイドラインに似た一時停止の規定があります)あって、法的強制力がない、という点です。つまり、同じ法律でも、破産法や民事再生法に従って行なわれる一時停止は裁判所の命令であり、強制力があるのに対して、リスケジュールは裁判所が介在しない任意整理ですから、銀行側には法的拘束力はないのです。あくまで企業側からのお願いに過ぎません。
もっとも企業側からのお願いであっても、法や慣例があるわけですから、多くの場合、銀行は原則的にそれに則って対応します。しかし、強制力はなく、任意整理は企業側と銀行側の話し合いによる調整が前提ですから、曖昧な点が多々残っています。
たとえば、担保権の実行をしてはならないのですから、工場や店舗の用地や建物、社長の自宅などの担保不動産を売却したり強制退去を命じたりすることは出来ません。ですが、定期預金担保の実行は曖昧です。つまり、定期預金担保は返済に充てられてしまうことも珍しくないのです。売掛金と紐付いた短期融資がある場合も、交渉が難航するケースがあります。他にも社債があるケースなどでは特別な調整が必要ですし、金利が交渉の俎上に乗るケースもあります。いずれにせよ、リスケは一時的な措置に過ぎないので、強制執行はありえないのですが、それでも話し合いが前提なので、慣例上、曖昧な点があり、折衝の材料となるのです。
逆に、まず生じることがないのは、連帯保証人に返済を銀行が要求することです。多くの場合、中小企業の社長は融資を受ける際、連帯保証契約を結んでいるものですが、会社がリスケの申出をしたからといって、連帯保証人である社長に返済が要求されることはありません。社長ばかりではなく、友人や親族など第三者が連帯保証人となっている場合も同様です。リスケは一時的に返済が出来なくなっただけで、根本的に返済不能に陥ってしまったこととは別と解釈されるからです。この点は安心して良いでしょう。
こういうわけで、リスケを申出ると一時停止が生じ、約定通り元金返済を行なわなくても良くなり、資金繰りは少し改善します。しかし、最も注意しなければならないのは、収益力の悪化度合いが極めて大きく、営業CFがマイナスになっている企業です。この場合は、仮に元金返済がなくなっても資金繰りは改善しません。また、これまで資金繰りを維持するのに手形割引や当座借越を利用していた場合も注意が必要です。一般に、リスケを申出ると返済がなくなる代わりに借入も出来なくなります。つまり、例外はあるものの、手形割引や当座借越も出来なくなるのが原則なのです。
また、金融機関にリスケを申出た情報が、仕入先企業や顧客企業に漏洩してしまい、会社の信用に傷が付くのではないか、という点も社長としては心配なところでしょう。この懸念に対しては、コンプライアンス上、そうした信用情報の漏洩は銀行としてはあり得ない行為だとは断言して良いでしょう。これに加えて、銀行は会社再建に協力をする目的でリスケの申出を受けているのだから、その障害となる情報漏洩を行なう理由は全くない、ということも挙げて良いと思われます。しかし、過去にそうした情報漏洩が起きた事例がなかったかというと、そうした事例が存在したのも事実です。つまり、こうしたことが生じるリスクも完全にゼロではないというべきです。
一般にリスケジュールは、強制力がないとはいえ、法に則って行なわれる行為なのでデメリットやリスクは小さく、返済条件の変更による資金繰りが改善するメリットの方が大きいと言えるでしょう。しかし、それは話し合い(交渉)を前提とした制度であるが故に、曖昧な点も多く、慎重に進めていかなければならない点も多く残っていることも念頭に置いておくべきです。経営にとって、それは大きな決断であることは間違いないのです。
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生井 勲Namai Isao
株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント
1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。