中小企業の事業再生コンサルの仕事とは何か?

投稿日: 2020.12.13

生井 勲

生井 勲

企業とは、どんなものであれ、人間のためにあるものです。企業の発展は社会の発展に役立ち、ひいてはその従業員、経営者の生活に役立ちます。しかし、中小企業には難しい問題が残っています。経営が順調なときは良いですが、悪化すると、最悪のケースで経営者の生活を破壊してしまうのです。経営者は、経営が悪化して資金繰りに窮するようになると、個人資産をつぎ込むからです。はじめは役員報酬を削減したり個人の預金を貸し出したりし、それでも不足すると、次に個人の生命保険を解約して資金を作り、会社に貸し出します。さらに、自宅を担保に入れて銀行から資金を調達することも珍しくありません。

これらの貸付金(会社から見れば役員借入金)は、会社が倒産すると返ってきません。したがって、こうした経営不振にある会社の社長の多くは、身を削って生活をしながら、倒産ですべてを失ってしまいます。また、仮に役員借入金を少額にとどめても、会社が支払不能に陥り破産すれば、連帯保証人である社長がすべての残債を負わなければならず、多くのケースで社長は破産することになるため、やはりこれら個人資産の大部分は失われてしまいます。

したがって、上場企業など大企業の事業再生と異なり、中小企業の事業再生では会社再建とともに経営者個人の生活と財産の保全というミッションがあります。事業再生とは、中小企業においては、文字通り、経営者個人の再生という側面を含むのです。

しかし、経営者個人の生活と財産の保全は、企業再建のために取り得る手段によって異なってきます。つまり、事業再生において、ゴールをどのように設定するかによって、経営者個人の生活と財産の保全手段も異なってくるのです。それは、会社の置かれた経営状況や経営者が会社経営に果たしている役割などの違いによって、経営者個人に対して債権者が要求する事項も異なってくるためです。

具体例を挙げましょう。

例えば、リスケジュールは返済条件の一時的な緩和であり、債務の返済能力が根本的に問われるような再生手法ではないため、連帯保証人に企業の債務の返済が要求されることはありません。つまり、原則として連帯保証責任は問われないのです。しかし反対に、債務の返済が不可能であることがはっきりし、債権放棄が実行されると、放棄された債権については連帯保証責任が問われます。経営者責任・株主責任も追及されるため、多くの場合で社長の地位に留まることもできません。つまり、事業再生のゴールを、経営者個人の生活や財産を一切失わずに済ませ、なおかつ社長職も継続できるようにするためには、例外もあるとはいえ、原則として債務免除などの手段は採りえないのです。しかし、これを機に例えば、社長職を第三者スポンサーや息子に譲って引退することがゴール設定として可能であれば、これもまた選択肢の一つになるケースがあります。こうしたケースでは、同時に、いかに社長に問われる連帯保証責任を軽減するかも大きな課題となるでしょう。

つまり、中小企業の事業再生においては、会社再建といっても、経営者個人が連帯保証責任や株主責任、経営者責任として払うことを覚悟している犠牲の範囲内においてしか、それを実現する手段を選びえないのです。逆に、経営者個人の生活と財産の保全といっても、会社再建を実現する手法が許容する範囲でしか実現出来ないことになります。両者は全く異なったものですが、一体として絡み合っています。事業再生手法としてどのような手段を選択するかが重要となる理由がここにあります。

したがって、事業再生コンサルの最も大切な仕事は、会社が置かれた経営状況や経営者が会社経営に果たしている役割から、実現可能な会社再建の手法を提案し、それに伴って生じる経営者への責任とその緩和策等を示すことです。逆に、その時点で、経営者が覚悟を決めている事柄から会社再建のために選択しうる手段を提案することです。このためには、会社経営の目的、もしくは事業再生のゴールを社長と一緒に検討しなければなりません。これには、会社の事業ビジョンや経営戦略はもちろん、会社の後継者のこと、自宅を含む社長の個人資産、家族のことまで配慮して相談にのる姿勢が不可欠です。

それゆえ、資金繰りがショートしそうだと聞いて、いきなり民事再生を提案するようなコンサルは、中小企業の事業再生のプロフェッショナルとは言えないでしょう。民事再生は仕入先企業も含む債権者に大きな迷惑をかけるばかりか、債権放棄に至り、経営者責任や株主責任、連帯保証責任が追及されることは必定だからです。

逆に、会社再建を目指さなければならないのに、経営者に様々な責任が生じることを回避することしか考えられないコンサルもプロとは言えないでしょう。もちろん、収益力が回復し、会社再建ばかりか経営者個人の生活と財産の保全も完全に実現するのが理想であることは間違いありませんが、それが万が一うまくいかなかったとき、そうしたコンサルは自分の仕事を果たすことができないからです。経営者に厳しい覚悟を迫らなければならない状況に陥ると真っ先に退散してしまうコンサルは、プロとは言えません。事業再生コンサルの仕事には、経営者に要求される以前に、そうした覚悟が不可欠なのです。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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