企業再生とは?|中小企業を倒産から守る方法、成功の条件やメリット【完全ガイド】

投稿日: 2022.08.17

生井 勲

生井 勲

企業再生とは

企業再生の定義

企業再生とは、企業が存続の危機にある場合に、その原因を排除し、企業が本来あるべき社会に貢献できる姿によみがえらせることです。

たとえば、継続的に赤字を出して資金繰りに窮しているケースや過剰債務によって債務超過を起こしているケースが、これに当ります。こうした財務状況は、企業が本来あるべき姿とは直接関係なく、たんにその企業を存亡の危機に立たせてしまうからです。企業再生は、こうした財務状況の問題点を排除し、本来あるべき姿を取り戻すことを意味します。

しかし、ここに解決すべき課題があります。

つまり、こうした財務状況に陥ってしまった原因は何か、という点です。この原因が、もしもこの企業が、本来企業としてあるべき姿からかけ離れていたことにあったのであれば、この企業を存続させる理由はない、という判断もあり得るからです。つまり、こうした財務状況に陥ってしまった原因の追求が不可欠なのです。

たとえば、次のような企業は、企業再生させる理由がない企業と見なされる可能性があります。

・反社会的勢力、もしくは反社会的勢力との関係が深い企業

・粉飾決算や従業員に対するコンプライアンス違反などが常態化している企業

企業再生には、一般に多くの人々の協力を必要としています。たとえば、銀行などをはじめとした金融機関はもちろん、場合によっては仕入れ先を含む債権者の協力が必要です。従業員にはリストラに応じるよう要求されることもあるし、減給や賞与の支給停止などもあり得ます。経営者には責任を取ってもらい、退陣してもらう必要があるケースもあります。これらの多大な犠牲を払っても存続させる価値がある企業、つまり本来社会に貢献しうる姿が望みうる企業である場合のみ、企業再生に踏み込むことが出来るのです。

しかし、逆に言えば、こうした企業でなければ、本来あるべき企業の姿によみがえるチャンスは開かれている、というべきでしょう。

企業再生の目的・メリット

企業再生のメリットは主に3つあります。従業員の観点、債権者の観点、経営者の観点からあげられます。

・従業員の観点

企業再生ができない、すなわち倒産を意味しますが、企業が倒産した場合、従業員は職を失ってしまいます。失職がどの程度大きな影響をもたらすかは、個々の従業員にとって異なりますが、一般的にいって勤続年数の長い従業員にとっては、メリットよりデメリットが大きくなるとは言えるかも知れません。つまり、あくまで一般論ですが、長く従業員に働いてもらえている企業の方が、企業再生に踏み込む価値がある、と言えることになります。

・債権者の観点

債権者の観点からすると、最大回収の原則といい、少しでも多くの債権を回収することが大切になります。倒産してしまうと回収できなくなってしまう債権も企業再生することで回収できる可能性が出て来る場合、債権者にとっては企業再生は大きなメリットがあることになります。つまり、一部の債権を放棄しても倒産した場合より多くの金額が回収ができるのであれば、企業再生に協力する価値があります。

・経営者の観点

倒産をしてしまうと経営者も収入を失うほか、破産手続きなどが必要となってしまう可能性があります。中小企業経営では、債務について経営者個人の連帯保証をしていることが多く、経営者自身も破産手続きが必要になってしまうのです。これを免れるためにも、経営者にとっても企業再生にメリットがあります。また、仮に経営者個人が破産することで、スポンサーが企業の再生を支援してくれるような場合、そうした選択によって企業経営者としての名誉が守られることも考えられます。大変厳しい選択ですが、自分が破産して会社を残す、という考え方も企業再生には重要なケースがあるのです。

企業再生と事業再生の違い

企業再生と近い単語で事業再生があります。

事業再生とは、企業の中で経営状態が悪化している事業の立て直しのことをいいます。企業再生が必要な企業の中には、その企業が営んでいる事業の収益状況や財務状況の悪化が原因となっている場合が多くあります。こうした場合、事業を抜本的に見直すことで収益をあげることができるように再構築することです。

ときには、問題事業の立て直しを諦めたり、売却したりして、優良事業を中心とした経営に移行することもあります。こうすることによって、優良事業に経営資源を集中することが出来るようになり、企業の存続はもちろん、さらなる成長に踏み出すことが出来るからです。

それゆえ、企業再生と事業再生とで、大きな違いはありません。企業が営む事業内容をよくすることで、企業再生につながることが多いからです。

しかし、強いて言うならば、事業再生は、優良な事業を残すためには企業の再生を諦める場合がある、という点でしょう。逆に、企業再生では、優良事業であっても企業の存続を諦めてまでその事業を残そうとはしません。本来社会に貢献しうるのは、事業なのか、それとも企業なのか、微妙な考え方の違いがそこにはある、と言えるでしょう。社会に貢献しうるものを残すのが、企業再生であれ事業再生であれ、共通した考え方で、厳密にはどちらが正しいか判断するのはケースバイケースだと言えます。

企業再生に臨む最低条件

企業再生を行うことができる条件を解説していきます。前に企業再生の定義の項目で、反社会的勢力やコンプライアンス違反の著しい企業は、企業再生の対象とならないことがあるという点に触れましたが、ここでは更に詳細な条件に触れます。

しかし、この条件は、同時に企業再生を実行する場合の当面の目標という意味合いが強いと言えます。つまり、ここで述べる条件とは、企業再生に踏み込むならば、最低限達成しなければならない条件なのです。この最低条件が達成できないならば、当面の目標すら到達する見込がないわけですから、企業再生は諦めるのが賢明だ、という意味です。

最低条件とは言え、厳しく感じられるかも知れません。これを満たせるか冷静に判断するのは、経営者の役目とは言え、難しく感じるかも知れません。企業再生は一般に難易度の高い経営判断を伴いますが、第三者的な立場からの助言が不可欠と言えるでしょう。難易度の高い判断ですので、実際は企業再生専門のコンサルタントをはじめ、様々な方々の知見が必要となると考えて良いでしょう。

負債の削減で正常な資金繰りができる

企業再生の最終的な手段の一つとして、債権放棄があります。つまり、借入金や仕入代金などの債務の一部を免除してもらうのです。

しかし、いうまでもなく、こうした最終手段を講じても、企業の資金繰りが正常化できず、存続の見込がないのであれば、再度資金繰りで躓いてしまい、企業再生がうまく進みません。それゆえ、資金繰りを正常化させるために事業構成や事業ごとの費用の見直しなどを行い、営業キャッシュフローの黒字化が求められます。営業キャッシュフローの黒字化は、最低限の条件なのです。

企業再生においては、最終手段として債権放棄が行われることがありますが、通常は営業キャッシュフローを黒字化した上で(その見込を確定させた上で)、スポンサーなどからの資金投入を行なってもらうとともに、金融機関などから一部負債を圧縮してもらい、資金繰りを正常化します。

なお、これが多くの場合で最終手段であるというのは、債務免除に応じる債権者の側からも、資金注入をするスポンサーの側からも、経営者交替を求められることが通常だからです。中小企業にとって、経営者退陣はとても大きな変革を意味するからにほかなりません。

金融機関をはじめとした債権者の協力が得られる

債権放棄まで求めないにしても、資金繰りに窮した企業は、多くのケースで金融機関など債権者に協力を求めていくことになります。たとえば、返済に窮しているのであれば、借換えによって月々の返済額を圧縮したり、場合によってはリスケジュールといって約定返済の条件を緩和し、返済を猶予してもらったりする必要が生じます。

このため、企業再生には債権者の協力が必須となります。

それでは、債権者の協力が得られない場合、どうなるでしょうか。多くのケースでは、事実上、債権者の同意のないまま、債務の弁済が滞ることになります。これが仕入債務の支払であれば、恐らく仕入は出来なくなり、事業は遅かれ早かれ停止に追い込まれるでしょう。仕入債務の支払が支払手形で行われることになっている場合は、不渡り手形が発生し、金融機関取引が停止し、倒産に追い込まれます。

金融機関債務であれば、期限の利益が喪失します。期限の利益の喪失とは、銀行借入について一括弁済が求められる、ということを意味しており、店舗や工場はもちろん、社長の自宅などが抵当に入っている場合は、担保権が実行されます。また、信用保証協会の信用保証を受けている場合は、信用保証協会に代位弁済の申請が行われ、同時に、連帯保証人である社長にも債務弁済の請求がなされます。

こうした状況に追い込まれると、企業は事実上、倒産ということになります。優良事業があればそれを残す道はありますが、企業再生はほぼ不可能と言って良いでしょう。したがって、前述のように、企業再生には債権者の協力が必須と言って良いのです。

市場や社会の需要が見込める事業内容

企業を再生するためには、事業に需要があることが必要となります。市場、または社会に需要がなければ、収益は回復せず企業再生につなげることができないため、企業再生を進めることができません。

これは当然のことですが、案外忘れがちな点です。市場も社会も時代とともに変わっていくので、かつて必要とされた事業もやがて必要とされなくなるのです。たとえば、冷蔵庫のなかった昭和初期、氷で食べ物を冷やしていましたので、氷屋が町にはありました。しかし、今日、氷屋を見かけることはほぼありません。

事業内容は極端に古びてしまってはいないでしょうか。社会や市場に需要があることが企業再生には必須なのです。

それでは、事業内容に需要がないと思われる場合、企業を再生するにはどうすれば良いでしょうか。言うまでもなく、事業内容の転換です。たとえば、多くの企業が、過去にもうけた事業で建てたビルを活用した不動産事業に転じて存続しています。自社の資産を見つめ直し、別事業に転用することでより大きな収益を上げることができるようにならないか、考える必要があります。

いずれにせよ、需要のない事業で企業再生をするのは無理なのです。

経営者や従業員に改善や改革への意欲がある

企業再生、とくに自主再生を進めるためには、企業再生の中心となる経営者に意欲がなければ進めることができません。企業のリーダーとしての覚悟ややる気がなければ、債権者の協力も得られにくいでしょう。また、経営者に覚悟がなければ従業員もついてきてくれません。

企業再生においては従業員も重要な役割を果たすことになります。従業員に意欲がなければ、債権者などが協力してくれたとしても実務を進める人がおらず、うまく進まないでしょう。

しかし、単に意欲があれば良い、ということではありません。大切なのは、変革への意欲、改善への意欲があることです。頑張ると言っても、これまでと同じことを同じようにしていたのでは、駄目なのです。駄目であるばかりか、これまでと同じ努力を繰り返すのであれば、事態は悪化しかねません。なぜなら、これまでも努力をしていないのではなく、そのような努力をした結果として今の窮状があるからです。

これまでの努力を(すべてではないにせよ)否定し、改革や改善の意欲を持つこと。しかも、企業再生の過程で、経営者はもちろん、従業員は減給や賞与支給が停止したりするなどの犠牲を払わなければならなくなることがあります。それゆえ、これは極めて厳しい条件といわねばなりません。これが、多くの企業が自主再生を諦め、スポンサーに売却して経営者は退陣するなどの道を選択する理由です。

もちろん、自主再生が不可能と言うことではありませんが、これが厳しい選択であることは覚悟すべきで、難しい経営判断を伴います。そればかりではなく、計尾映写には強固なリーダーシップも求められるのです。恐らく、こうした経験を積んだ企業再生専門のコンサルタントをはじめ、多くの方々の意見を聞いて判断すべきでしょう。

企業再生の方法

上述の企業再生の条件を満たせば企業再生を進めることができます。企業再生には大きく分けて法的再生と私的再生の2種類があります。

法的再生

法的再生とは、裁判所の関与のもと手続きが進められる再生の方法となります。以下で、メリットやデメリット、効果的な手法を解説していきます。

・法的再生のメリット

法的再生のメリットは、民事再生法などの法律で定められたスキームで実行するために裁判所が関与することから、債権者と債務者企業、つまり当事者間の公平性が確保されている点です。また、再生可能な事業計画でなければ認可されることがないため、金融機関などの債権者の理解も得られやすいです。

そのほか、債権者の一部に反対する人がいたとしても債権額に応じた多数決で進めることができるため、企業再生を進めやすいことも法的再生のメリットです。

・法的再生のデメリット

法的再生で手続きを進めた場合、信用調査会社などが公表することになるため、企業イメージなどを含めた企業価値の毀損が起こります。

つまり、法的再生を進めていることは取引先から不安視されてしまい、取引が停止になってしまう場合や取引量を減少させられる場合など再生手続きを進めるにあたり、悪い影響が出てしまう可能性があるのです。金融機関債務だけではなく、仕入債務も債務整理の対象となるため、取引先からは倒産と見なされてしまいます。

(a)会社更生法

会社更生は比較的大規模な株式会社が利用することを想定した手法となります。会社の再生・再建を図ることができ、更生計画案に反対する債権者がいても多数決で進めることができます。

一方、経営陣が会社の経営権を失ってしまうというデメリットも存在します。予納金の納付など相当額の出費も必要となります。

担保権の実行を留保してもらうことが出来るなどの特徴がありますが、中小企業が選択できる手法ではありません。

(b)民事再生法

民事再生は法的再生でもっとも一般的な手法で、個人、会社問わず利用することができます。中小企業が用いることの出来る法的再生は、民事再生と言って良いでしょう。

民事再生の場合、原則として、経営陣の退陣が求められることがないため、継続して経営に関与することができます。そのため、経営陣が主体的に進めることができます。しかし、近年の民事再生では、多くのケースで債権者から経営者退陣が求められるのが事実です。

また、民事再生は裁判所の関与のもと再建を進められることになります。多数決で再建計画を成立させることができる点などが民事再生のメリットとなります。しかし、反面、仕入債務も債務整理の対象となってしまうため、仕入れ先との取引に問題が生じるなど、企業価値の毀損は免れません。

(c)特定調停

特定調停は、会社更生や民事再生とは異なり、当事者間の話し合いであるため、裁判所は調停委員として仲介するものとなります。

私的再生

私的再生とは、債権者と債務者企業の話し合いにより行われる再生であり、裁判所が関与する法的再生とは異なります。メリットやデメリット、効果的な手法を解説していきます。

・私的再生のメリット

私的再生のメリットは法的再生のデメリットの逆で裁判所が関与しないため、関係する金融機関などとの話し合いは非公開で進められることになります。このため、仕入れ先などに対する信用不安を回避することができ、取引などに影響が出ません。そのため、法的再生と比較すると、企業のイメージなどの企業価値の毀損が起こりません。

・私的再生のデメリット

私的再生のデメリットは、法律による明確な手続きなどはなく、支払停止などの効力もないので、各債権者との話し合いにより決めていくこととなります。また、私的整理では多数決による決定などは出来ず、全債権者の同意が必須であることが企業再生を進めていく上では大きな困難となります。

そのため、銀行など債権者側に有利な内容になってしまう可能性がある点や合意ができない債権者からの協力が得られない可能性があります。とくに債権者からの協力が得られないのは、企業再生にとって致命的であるため、交渉は難しくなる場合があります。

(a)中小企業の事業再生等ガイドライン

「中小企業の事業再生等ガイドライン」とは、2001年に発表された「私的整理ガイドライン」に替わるものとして、中小企業の事業再生等に関する研究会が策定した「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」であり、中小企業者を対象に私的整理の考え方、進め方などがまとめられています。これは、2022年4月より運用が始まっており、現在のところ趨勢が見守られているところのものです。

私的整理の場合、明確な手続きがなく、債権者の理解も得にくいため、当該ガイドラインに則り私的整理を遂行することで債権者の理解も得やすくなることが期待されています。しかし、私的整理に当るため、すべての債権者の同意が必要となります。

(b)中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)

中小企業活性化支援協議会とは、旧中小企業再生支援協議会が2022年に改組したもので、この関与によって中小企業の再生が図られます。中小企業再生支援協議会の十分な実績があるため、とくに金融機関等の信頼は篤く、債権者は安心感を持って取組みに応じることが期待できます。

実際、中小企業活性化協議会が債権者と債務者企業の話しあいに際して参照する中小企業再生支援スキームは、中小企業再生支援教護会の活動をもとにして作成されたものです。

しかし、このスキームも、全債権者の合意が必要である点など、私的再生のデメリットは変わりません。また、中小企業の特性などを考慮したスキームは、細かすぎるとの批判も多く、債務者企業にとってはハードルがやや高いものとなっています。

(c)事業再生ADR

ADRとは裁判外紛争解決手続のことで、訴訟手続きによらずに紛争解決する方法を指します。企業再生においても、裁判外紛争解決手続(ADR)を用いることが出来ますが、これは特定認証ADR機関の関与が必要です。

特定認証ADR機関とは、産業競争力強化法に基づく機関であり、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律や産業競争力強化法等の根拠法令に基づき制度化された機関です。

当該手続きの実施は公表をする必要がなく、金融機関など債権者との話し合いをするものであるため、仕入れ先企業との取引を継続することができ、上場会社であれば上場の維持も可能となっています。他に、債務免除に伴う税制上の優遇措置があることやメインバンク以外の金融機関との調整も促進しやすいなどのメリットがあります。

反面、全債権者の合意が必要なのは当然としても、ADRの申立件数のわりには合意に達した件数は多くない、などのデメリットがあります。必ずしも金融機関など債権者側から好意を持って迎えられるスキームではない、と言えるでしょう。

(d)企業再生ファンド

企業再生ファンドとは、投資家から集めた資金を元手に金融機関から再建を買取り、企業への出資を行い、専門家を派遣して企業の再生を行います。

具体的には、企業再建の専門家の派遣や資金調達方法の見直し、また、不採算事業の売却などを進めることで対象会社の収益性を上げ、株式公開や株式譲渡により収益を上げ、投資家に還元します。

また、企業再生ファンドが出資を決定する場合は、通常は債権放棄を伴いますが、これも全債権者の合意が必要となります。

(e)純粋な私的整理

これまで解説してきた手法は、中小企業の企業再生ガイドライン、中小企業再生支援スキーム、企業再生ADRなど、裁判所の介入はないにしても法的なスキームに準拠して債権者と債務者の間で話し合いを行うもので、「準則型」と呼ばれます。

これに対して、「非準則型」の私的再生は、債務整理の手続きについてこうした詳細の規則がありません。このことから、「純粋私的整理」と呼ばれることがあります。純粋私的整理は、債権法や会社法などの関連法規を活用しながら調整を進めるもので、一般に、難易度は高くなります。また、もちろん私的再生ですから、全債権者の合意が必須となります。

しかし、「非準則型」とはいえ、私的整理ガイドラインの制定以降は、曖昧ながらも文書化されていない「ルール」が慣例的に共有されています。よって、とくに債権者と債務者との調整に大きな障害がないケースでは、実際的なコンフリクトが生じないため、ほとんどが純粋な私的整理を用いた私的再生によって企業再生が進められるのが現状といって良いでしょう。

とくに中小企業の借入には信用保証協会が信用付与をしている場合が多いため、近年では信用保証協会が中心となって、債権者と債務者との調整を図っているケースも多く見受けられます。

つまり、従業員数が多く、債権額も大きく、債権者と債務者との調整に大きな問題があるケースだけが「準則型」によって再生が目指されており、多くの中小企業の企業再生においては、そうした詳細の規則を用いることなく解決しているのです。

M&Aによる企業再生

企業再生の方法の中でもM&Aを活用した企業再生の方法があります。M&Aによる企業再生とは、第三者スポンサーに出資などの協力を得ながら、企業再生を進めることを意味します。経営者が保有していた株式は売却され、経営者は退陣するのが一般的であるため、最終的な手段として選択されるのが通常です。

しかし、前述したように、自力再生は経営者にとっても厳しい覚悟が必要であるため、現実的な企業再生の方法としては極めて有力です。メリット、デメリットは下の通りです。

・M&Aによる企業再生のメリット

M&Aによる企業再生のメリットは以下があります。

第三者スポンサーの支援が得られる

複数手法から適したものを選択できる

経営の効率化をしやすい

自主再生の困難を回避できる

M&Aによる企業再生を選択した場合、第三者の支援が前提となるため、自主再生の困難を回避できます。また、選択肢は複数あり、スキームを選択すればコア事業に注力でき、経営の効率化を進めることができます。

・M&Aによる企業再生のデメリット

反対に、M&Aによる企業再生のデメリットは以下があります。

専門的な知識が必要

M&A先の選定が難しい

経営者は退陣となる

企業再生自体も専門的な知識が必要となりますが、M&Aによる企業再生で進めるとさらにM&Aの知識も必要となります。そのため、専門家の依頼も必要になります。また、M&Aで進める場合、相手先の選定も難しくなります。そもそも相手が見つからなかったり、条件を満たさなかったりするので注意が必要です。

また、M&Aによる企業再生では、スポンサーによる出資のほかに、不採算部門を切り離すことで、経営資源を主要事業に集中させ、企業再生を図ることになります。企業再生においては事業譲渡や会社分割などが主な選択肢となります。

なお、M&A(エムアンドエー)とは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で、「会社あるいは経営権の取得」を意味します。M&Aによる企業再生の手法は主に3つあります。

事業譲渡

事業譲渡は、事業あるいは事業の一部を他社に譲渡する手法です。基本的には個別に承継する資産・負債を個別に決定し、売買するため、引き継いだ側は簿外債務などを引き継ぐことがないというメリットがあります。

ただし、不動産などの売買にあたっては、不動産取得税や登記料などのコストもかかるうえ、事業の買い手は、新たに取引先や従業員と契約し直さなければならず、許認可なども引き継がれないため、手続きに手間がかかるのもデメリットです。

また、事業譲渡の対価は現金で支払われることになるため、事業資金にも回しやすいというメリットがあります。

会社分割

会社分割は、事業あるいは事業の一部を、既存の会社か新設の会社に移転する手法です。会社分割は株式を新しい株主に譲渡するもので、この点が資産・負債を個別に売買する事業譲渡と違う点です。移転する会社に属する資産や負債は一括して移転できるのです。

会社分割の場合、事業を引き継ぐことになるため、従業員と個別に転籍手続き等をする必要がありません。

ただし、新設分割の場合は対価が原則株式となるため、その点は注意が必要です。また、会社分割は高度な手法なので、会計士や弁護士などの専門家の関与が不可欠で、費用は高額になりがちでな点もデメリットとなります。

第二会社方式

第二会社方式は事業譲渡や会社分割により、コアとなる優良事業を第二会社に移転させておき、旧会社を破産手続きや特別清算手続きをとって法人格を消滅させる手法です。

旧会社が抱えていた債務や不採算事業は旧会社に残すことで旧会社の法人格の消滅とともに整理でき、主要事業だけを残すことができるというメリットがあります。

企業再生の流れ

企業再生の一連の流れについて、概要を説明します。

なお、私的再生と法的再生の違いなど、選択する手法により所々違いがでてきます。すべてに適用できる流れではありませんので、ご注意ください。

経営実態の把握【STEP1】

まずは、苦境に陥った根本原因を解明し、現状確認を徹底します。これを専門用語でデューデリジェンスと言います。それでは、デューデリとはどんなことを調査し、確認するものなのでしょうか。

専門的には「窮境要因」と呼ばれる、経営悪化の「中核的な原因」を究明するのが必須です。しかし同時に、そこから派生する「周辺調査」も重要です。

たとえば、過去の不動産投資が失敗し、苦境にある会社があるとします。このための融資を受けた際に、連帯保証人として遠縁の資産家が含まれており、しかも、その連帯保証契約は、複数行から受けた融資のうち1行の最も古い融資口だけで、そのことを社長が失念していたらどうでしょうか。債務免除を願い出るような場合、連帯保証責任が生じますから、放置しておくと、この遠縁の資産家にもその弁済請求が及びます。

こうしたケースでは、最も中核的な原因を究明するだけでは済みません。実行する前に、関連してくる可能性がある「周辺的な事柄」についても、網羅的な調査が必要です。デューデリをしないで、債権者と交渉をはじめるのは大きな事故につながりかねないのは、上記の事例からご理解いただけるのでしょう。

デューデリと一口に言っても、財務面や事業面に限らず、必要に応じて法務面や税務面のデューデリジェンスなど、広範かつ多角的な調査が必要です。これによって、経営全般が俎上にのぼり、「中核的な原因」が明らかになるからです。

近年では、労務上のトラブルを抱える企業が増えており、労務デューデリジェンスが重視される傾向にあります。とはいえ、大きな時間と労力が費やされるのは「財務面」と「事業面」に関する調査です。これを把握することで、後のステップで作成することになる「再生計画」の策定において、どんな取組み事項を含めるべきか、はっきりするのです。「中核的な原因」、つまり「窮境要因」の除去が経営計画の中心となるのは、言うまでもないでしょう。

またデューデリによって、どうしたら資金繰りが維持出来るか、その一時的な対策を検討することが可能になります。「銀行と交渉して借入金返済に猶予をもらえそうか」、「その交渉において注意すべきことは何か」、「他に支払を遅らせることができそうな債務はないか」、「逆に受取が遅れている売掛金などの債権はないのか」、こうした実態を明らかにして、生き延びる策を立てるのです。

もちろん、一時的な資金繰りの措置だけでなく、収益力を改善することによる抜本的な改善施策も、このデューデリジェンスの結果から分析、検討することによって導かれます。

デューデリと並行して重要なのは、「企業再生の目的」を経営者と共に探ることです。いったい何を「目的」として企業再生を目指すのか、これを探るための材料を把握することも大切で、これは客観的なリサーチというよりは、ヒアリングに基づいたカウンセリングに近いやり取りによります。

こうした「企業再生の目的」や「会社の実態」を把握したうえで、次のプロセスに移ります。

再生手法の選択【STEP2】

会社の実態を把握したら、次にどんな再生手法を選ぶべきかです。

再生手法と言っても、金融機関など債権者に願い出る金融支援だけに限っても、かなりのバリエーションがあります。借換えなど融資に関するものでも、抵当などの付け替えを行う大胆なものから、信用保証協会の保証付き融資を中心とした協調融資まで沢山の手法があります。イレギュラーな手法としては、リスケジュール(返済条件の緩和)や債務免除などもあります。

しかし、いずれを実行するにしても、法的再生と私的再生は、再生手法として同列に扱える選択肢ではありません。自社の置かれた状況、経営難といってもどの段階にあるのか、専門的な知見から「再生ステージ」を把握することが大切です。まだ私的再生を選べる状況なのか、それとも私的再生をあきらめて法的再生を前提に再生計画を組むべきか検討するのです。

とくに私的再生はバリエーションに富んでおり、一つ一つの手法に特徴がある上、様々な条件の組合わせで複雑化しますから、再生の手法は無数にあると言ってよいでしょう。複雑で難易度が高いものの、様々な状況や目的に合せて、柔軟に対処できるのが私的再生のメリットです。法的再生と異なり、その実行手順に厳密な定めのない、高度に専門化された領域となり企業再生の専門家が不可欠です。

逆に法的再生は、その実行規則が民事再生法や会社更生法に厳密に定められていますから、一部の例外があるとはいえ、私的再生のような大きな柔軟性やバリエーションがありません。この場合は、言うまでもなく、法律を熟知する弁護士の関与が必要です。

いずれにせよ、置かれている会社の状況によって再生手法は制約されます。しかし、経営者本人や従業員、会社の将来を見通して、その制約からのベストな再生手法を導くことが重要です。

経営計画の策定と合意【STEP3】

再生手法が決まったら「企業再生計画書」の作成に移ります。

これは企業再生のためのアクションプランと、数値計画をまとめたものです。主に「窮境要因」の特定と除去を中心として、今後3年から5年程度の改善行動を具体的に示します。

この経営計画では、とくに債務の弁済計画を詳細にまとめる必要があります。

事業面・財務面の計画はもちろん重要ですが、その結果、「いつ・誰に・いくら返済できるのか」を明示する必要があります。「企業再生計画書」は、金融機関やスポンサーとの交渉で用いられますが、特に債権者との交渉において弁済計画が非常に重要になるからです。

計画には、経常利益の黒字化までの期間や実質債務超過解消までの期間、計画終了時点での有利子負債の返還年数などといった専門的な指標があり、これによって合意の採りやすさや合意後の金融機関の態度が変わってくることがあります。こうした点も含めて、計画策定は企業再生を専門とするコンサルタントと相談の上、行っていく必要があります。

経営計画の合意は、再生手法ごとに合意すべき事項や合意の取りつけ方に違いがあります。私的再生では全債権者の一致による合意が必要ですし、民事再生では債権者集会における投票によって採決が行なわれます。

再生計画の実行【STEP4】

いよいよ債権者によって合意された再生計画の実行です。

通常の再生計画で最初に着手されるのが、「キャッシュの流出を止めること」です。資金流出が続けば、再生どころか倒産しかねませんので最優先となります。

銀行など金融機関に協力を願い出て、リスケジュール(返済条件の緩和)を要請して返済額を減らしたり、不要不急の経費を削減します。生きながらえながら、収益性があり、将来性のある事業を残し、収益性が劣り、将来性のない事業から撤退していくのが「定石」となります。並行して、工場や事務のオペレーションを改善し、ムリムダを排除することで、収益力を強化することもあります。

もし計画が未達となり、資金繰りに難が生じると、会社存続が極めて厳しい状態に陥ります。この場合、再生計画に拘らず、すぐにでも第三者スポンサーを探す等、異なる打ち手が必要になります。状況次第で、私的再生から法的再生への切替え判断や、自力再生から第三者スポンサーによる再生への切替えなど、方針転換が必要です。

こうした相談事項はもちろん、合意後も金融機関など債権者には計画の進捗状況を報告する必要があり、これには企業再生の専門家の助力が必要となります。

企業再生コンサルタントはどのように選ぶべきか

企業再生の専門家、コンサルタントを選ぶに当って、とくに中小企業はどのような点に注目するのが良いだろうか。これまでの話から中小企業の再生には幾つかの難点があったことを思いだそう。

一つは、経営者本人が借入金等の連帯保証人となっているケースが多いこと。仮に企業が破産すると、経営者本人も同様の手続きをとることになり、本人はもちろん家族の生活が危機に陥る可能性があります。このため、こうした事情を十分に勘案して対策を練ってもらえるコンサルタントでなければならない、と言う条件があります。

二つ目として、仮に破産手続きは免れたとしても、スポンサーへの会社売却などにより経営者交替が必須となれば、経営者本人と家族にとってはやはり収入の道が途絶えかねません。こうした事情も勘案した上で、企業再生の計画は練る必要があります。

三つ目は、上記のことからして、単に企業を再生の手法としてだけではなく、経営者本人とその家族を再生させる手法として、法的再生、私的再生をはじめ様々な再生手法をコーディネートするだけの知識と経験が必要となります。

また、このことから、四つ目にとして、再生手法ごとのメリットとデメリット、またそれに伴って生じるリスクについて、経営者の経営判断に資することの出来るような情報を事前に提供する能力が求められます。

債務者企業の経営者の多くは、こうした知識がないので、これを分かりやすく整理して説明することが必要ですが、多くのコンサルは「もう破産するしかありません」とか「売却する以外に道はありません」などと粗雑な説明をします。そのメリットやデメリット、リスクについて説明がなければ、経営者は適切な判断を下すことが出来ません。いっぺんに理解して判断を下すのは大変難しいことですが、コンサルタントには分かりやすい説明を粘り強く繰り返すことが求められるのです。ましてや、経営者本人や家族の生活がかかっているのですから、当然のことです。これを蔑ろにすることは許されないでしょう。

もちろん、企業再生のコンサルにはその他にも、事業の収益力を改善したり、金融機関との交渉を行う能力も求められます。金融機関に理解を得て収益力を改善するのが、最も良い手段だからです。これが出来れば、経営者が連帯保証債務を背負うことも、職を失うこともありません。現実には、まずこうした自力再生を目指すのが王道でしょう。

しかし、こうした手段について相談をしていくにしても、企業再生、とくに中小企業の企業再生は、上記のように連帯保証契約についての対策や経営者本人及び家族の再生といった観点が不可欠です。本文で触れたように、自力再生は、それはそれで険しい道であることが多いのです。険しい道だからといって、失敗したときにすべてを失って経営者本人も家族も路頭に迷うなどということは、絶対に避けなければなりません。自力再生を目指しつつも、こうしたセンシティヴな事柄についても、相談に乗ってもらいながら最悪の事態を回避する、という観点は不可欠です。

ここでは、どんな観点から企業再生のコンサルタントを選ぶべきか、という点について述べました。中小企業に関してはとくに難しい点があるためです。是非、参考になさって企業再生を成功させていただきたいと願っております。

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この記事を書いた人

生井 勲

生井 勲Namai Isao

株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント

1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。

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