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会社の経営が立ちゆかなくなり、銀行の借金返済、仕入代金の支払、従業員の給与払いに悩むようになると、「もうダメなんじゃないか?」「破産するしかないのか?」と考え込んでしまう経営者を私はこれまでたくさん見てきました。この記事は、まず第一にこうした悩みを抱える中小企業経営者にまず読んで頂きたいと思い、執筆したものです。
この記事は、他のサイトに見受けられるように、破産という法律や制度について解説するために書かれたものではありません。もちろん、そうした法律知識は必要なので、最小限の解説はしていきます。しかし、そうした法律知識について詳細の知識を得たいならば、他の弁護士事務所のサイトの記事や著書を読んで頂きたいと私は思っています。この記事は、中小企業経営者が、破産を選択すべきなのか、それとも他の手段が残されているのか、という疑問について答えることを目的としています。そして、仮に破産を選択するにしても、どのように再生を図るべきか、という点についても述べていきます。
会社の破産は、経営者にとって人生の最後の選択ではありません。もちろん、それ以前に採りうる手段は無数と言ってもいいほどたくさんあるし、仮に破産を選択すべきだったとしても、経営者とその家族の生活はその後も続いていきます。破産は厳しい選択には違いありませんが、それでも再生のための通過点であり、手段であることを忘れてはいけません。
私がこの記事で伝えたいメッセージはこの点にほかなりません。つまり、この記事は、最小限の法律知識を伝えることを前提とはしていますが、それ以上に、中小企業経営者のための経営戦略についての解説なのです。
したがって、この記事を読んで頂きたい第二の読者層は、会社経営はそこそこ上手くいっていて破産なんて考えたことがない中小企業経営者です。
破産は、窮境に追い込まれた経営者が採りうる戦略的意志決定の一つです。もちろん、こうした戦略を採らずに済ませることができればそれに越したことはありませんが、もしもあなたの会社が経営危機に陥ってしまったとき、どのように考えたら良いか、あるいはどのように心の準備をしておけば良いか、知っておくのも無駄ではないからです。むしろ、ちょっと余裕のある今こそ、気軽に読んでおいて頂きたい。それが中小企業経営者がリスクに対して臨む姿勢というものだと考えるからです。
破産を考えなければならないような会社はどんな状態でしょうか。一言で言えば、支払に追われている会社です。しかも期日までに資金繰りの都合が付かず、支払を待っている債権者に毎日のように言い訳をしたり、謝罪をしたりしている会社ではないでしょうか。支払手形が不渡りになりそうなのかも知れません。あるいは財産差押えの通知が裁判所から既に送られてきたかも知れません。
非常に厳しい状態です。支払の催促や督促に追われて、営業に行きたくても行けない。注文に応じるために仕入をしたくても、滞納している代金を払うまで購入させてくれない。給与支払が遅延して社員が出社を拒否している。税務署や年金事務所に銀行口座を差し押さえられてしまった、などなど。
こうした企業は、事実上、事業の継続が難しい状態にある会社と言えます。こうした状況に陥ると、多くの場合、社長は「営業停止」を決断します。そして、これと同時に社長は弁護士に破産申立ての準備を始めてもらうことになります。
また、中小企業の場合、銀行など金融機関の借入金の連帯保証人に社長がなっているケースが多くあります。会社が破産・倒産して借金が払えなくなると、その払えない債務は連帯保証人に請求されることになりますが、通常は社長個人にその弁済能力はありません。したがって、弁護士には会社の破産申立ての準備開始と同時に、連帯保証人たる社長の破産申立ての準備もはじめてもらうことになります。
破産申立ての準備が整うと、代理人弁護士は裁判所に破産申立てを行います。これにより破産手続きが開始するのです。
破産手続きは、会社や連帯保証人たる社長の保有する資産をお金に換えて、それをもって銀行や仕入れ先など債権者に弁済することを目的としています。それゆえ、会社の保有資産はすべて換金され、社長の個人資産もほとんどが換金されます。
この仕事は裁判所の監督の下で、裁判所から選任された破産管財人が実行します。こうしたことは、すべての債権者を平等に扱うために必要な措置とされています。ですから、社長の判断で保有資産を処分したり、債権者ごとの支払金額(配当金と言います)を決めることはできません。
配当金の総額は債権額を下回りますが、配当金の支払いをもって破産手続きは完了します。そして破産手続きが完了すると、会社は消滅し、連帯保証人たる社長はすべての債務の免責を受けます。免責とは、すべての債務が帳消しになるという意味です。
このように弁済しきれなくなった債務を正当な仕方で処理することが、破産手続きの目的であり、第三者である裁判所の監督下であるから可能となる倒産処理、つまり債務整理なのです。
債務者、つまり会社とその経営者にとって、破産のメリットは、一言で言うと、こうした支払の請求や催促、督促が停止することです。そして、最終的にそうした債務が一切なくなることだと言っていいでしょう。
会社が「営業停止」の状態に入り、弁護士が破産申立ての準備を始めると、弁護士は支払を請求する債権者たちに受任通知を発送します。この書類には、会社はこれから債務整理に入る旨と請求は会社にではなく、代理人である弁護士にするように、と書いてあります。したがって、これが債権者の手元に届くと、弁護士は会社と連帯保証人たる社長の代理人として、債権者からの支払請求を受けることになります。
それゆえ、これ以降、会社と連帯保証人たる社長は一切支払の請求や催促、督促を受けることがありません。
また、破産手続きが裁判所で始まり、すべての破産手続きが完了すると、上述のように会社と連帯保証人たる社長はすべての債務から免責を受けることになります。つまり、すべての借金が帳消しになるのです。会社はこれにより消滅しますが、社長は無借金から生活を立て直すことができます。
要するに、破産申し立ての手続きを開始すると、その時から借金やその請求、督促などについての悩みから事実上解放されることになるのです。これが最大のメリットです。
上記のように破産はすべての借金を帳消しにするという大きなメリットがありますが、大きなデメリットもあります。このデメリットの大きさゆえに、破産は「債務整理の最終手段」だという点は忘れてはなりません。
デメリットは次の通りです。
これにより社長も全ての債務から解放されますが、生活を継続していくための最低限度の財産しか残りません。詳細は後ほど見ていきますが、会社は消滅するので給与はなくなるし、現金預金も99万円以下しか持つことができません。こうした最低限の財産以外はすべて債権者の債務弁済に充てることになるのです。
破産申立ての準備が始まり、破産手続きが完了するまで、会社と連帯保証人たる社長の財産は債権者の手から守られますが、自由に社長が処分することはできません。
破産申立ての準備を始める時は、代理人弁護士に預金通帳など一式を預けるのが通常ですし、破産手続きが開始すると裁判所が選んだ破産管財人が入って財産の管理をします。
会社は既に「営業停止」しているのでお金を使うことはないし、前に述べたように支払は一時的にすべてストップします。だから、代理人弁護士や破産管財人にすべてを預けても問題はありません。
連帯保証人たる社長は日々の生活がありますから、衣食住に必要なお金は破産申立ての準備に入った後もかかります。こうした日々の生活に必要となるお金を除いて、たとえば自宅や別荘などの不動産、自家用車、有価証券などといった社長の個人財産の処分はできなくなります。優先的に債務を弁済したいと社長が考える仕入れ先などがあっても、それはできません。
こうして会社や連帯保証人たる社長の財産が散失しないように破産管財人がきちんと管理し、これをお金に換えていくのです。そして、破産管財人は、そのお金をすべての債権者に対して公平に弁済します。
破産申立ての準備に入る段階で、会社は「営業停止」となっているのが通常です。破産手続きが完了するまで会社は法律上は存続していますが、通常は「営業停止」の状態がそれまで続いているわけですから、お客様も従業員も離れてしまいます。それゆえ、事実上、会社の再建は不可能だと言っていいでしょう。ただし、後述するように、会社はほぼ存続できませんが、事業再生のチャンスは僅かに残されています。
破産手続きが完了した時点で、会社は正式に消滅します。
「営業停止」によりほとんどの従業員が失職し、その後も残務整理が終わればすべての従業員が退職することになります。これにより、社員は収入を失い、社長をはじめ役員も収入がなくなります。多くの場合で、十分な退職金も出ません。
仕入れ先や銀行などといった債権者は、破産手続き完了まで支払を受けることができません。しかもその弁済額は、会社と連帯保証人たる社長の財産をお金に換えた金額をすべての債権者に公平になるように破産管財人が決めた額なので、通常は極めて僅かです。債権者が弁済を受けられる額は、ほんの数パーセントという例も珍しくありません。
お客様も期待していた納品を受けられなくなったり、継続的な発注先を失うことになります。
このように、破産による経済的損失は大きく、最悪のケースでは、仕入れ先などで連鎖倒産が生じる場合もあります。このため、繰り返しますが、破産は「債務整理の最終手段」なのです。経営者には、仮に事業再生のチャンスが残されているならば、これに取り組む責任があります。
会社の破産は経済的損失も大きく、中小企業の場合は連帯保証人たる社長とその家族の生活も脅かされるため、「債務整理の最終手段」です。このため、破産申立ての準備に入る前に検討すべきことがあります。ここでは、「事業継続のチャンスは残されていないか」「事業再生の見込はないか」という点と「債務整理の手段として破産が良いのか」という点からこの問題に答えていきます。
しかし、はじめに大事なことをお伝えしましょう。それは、ここでは「破産しか手段はないのか?」という疑問には答えない、ということです。「~しかない」という切迫した気持ちは冷静な判断を妨げます。経営者にとって大事なのは、冷静な経営判断を下せる状況に自分を置くことなのです。
本章は、こうした状況に経営者がを置くことができるようになることを目的としています。つまり、それは、厳しい状況でも様々な選択肢があること、それゆえ経営者として冷静な判断を下しうると知ることです。
さて、倒産前夜、つまり破産申立てに至る会社の状況はどうだったかを思い出しましょう。
それは、仕入れ先や銀行など債権者から債務の支払請求や催促、督促が厳しく、事実上、事業継続が困難だった場合です。税務署や年金事務所に預金が差押さえられたり、銀行に抵当に入れた本社ビルや工場、倉庫、商店などが差押さえられて競売に掛けられたりすると、事業継続は極めて厳しくなります。
預金が差押さえられれば、予定していた仕入れ先への買掛金の支払ができなくなり、その後の仕入に支障がでてしまうかも知れません。また、給与遅延で従業員が出社を拒否し、営業できなくなるケースもあります。工場や商店が競売に掛けられて他人の手に渡れば、立ち退きを要求されるのが普通です。
こうしたことは極めて厳しい会社の状況を示していますが、実は事業継続のチャンスが残っていないかというと、そうとばかりでは言えません。こうした状況に陥った場合、破産を選択する経営者が多く、その判断も間違いとは言えませんが、事業継続、したがって事業再生のチャンスがゼロとは断言できないのです。要するに、諦めることもできるし、諦めないことも時には可能です。破産の選択とは、会社経営者たる社長の、最も重要な戦略的意志決定であることを忘れるべきではありません。
それでは、事業継続ののチャンスがどこに残されているか、倒産回避の可能性はないのか、一つずつ見ていきましょう。
借入金の返済ができなくなり、リスケジュールも認めてくれなくなると、銀行は借入金の一括返済を要求してきます。これを期限の利益の喪失と言います。期限の利益を喪失すると、銀行はまず第一に銀行口座を凍結して、残債の一括請求をします。
銀行口座の凍結とは、その口座に預けてある預金を銀行融資と相殺し、返済に充ててしまうことです。このため、その預金口座の残高はゼロになってしまいます。また、しばらくの間は凍結したままなので、その間に売掛金などの入金があった場合、それも返済に充てられてしまいます。もちろんこの間は残高はゼロですから、この口座を使って仕入の支払や給与の支払い、振込みなどは一切できません。
銀行の口座凍結は厳しい状況ではありますが、乗り切って事業を継続している会社もあります。というのも、凍結される口座は借入金のある銀行の口座だけで、それ以外の銀行口座は通常に使えるからです。
売掛金の入金を借入金のない銀行の口座に変えてもらうようお客様と交渉し、仕入や給与の支払もそうした口座を使うように変えるのです。こうした営業口座の変更によって、倒産回避、つまり事業継続は可能です。
また、銀行に口座凍結されるとほぼ同時に、連帯保証人たる社長に会社の借入金弁済の請求がなされますが、多くの社長は支払に応じる財力がないため放置するしかないのが実情です。銀行の担当者に対しては、「事業継続して会社で弁済するよう努力する」と話をする必要があるでしょう。
また、これと同時に信用保証協会の信用付き融資については代位弁済が申請されます。銀行は借入金の弁済を信用保証協会から受け、信用保証協会は連帯保証人たる社長にその金額を請求します。これも同様に、社長には応じる財力がないことが多く、当面は放置するしか手段がありません。それゆえ、こうしことが会社の事業継続に障害となるとは考えられません。
もちろん、こうした連帯保証債務についていつまでも放置できるわけではありませんが、当面の間は全く問題がないのです。多くの社長は初めての経験で驚いてしまうでしょうが、焦って破産・倒産しなければならない理由はありません。むしろ、冷静に検討する時間は十分にあるというべきです。
銀行借入金の期限の利益を喪失すると、抵当に入れてあった物件については、任意売却をしたり、競売にかけたりしてお金に換えて返済するよう、銀行は迫ってきます。任意売却を拒否しても、競売にかける権利は銀行にあるので、その結果、第三者に落札されると、物件は人手に渡ってしまいます。
抵当に入れてある物件が工場や商店、倉庫の場合は深刻で、こうした事業資産が人手に渡ると最終的には立ち退きを要求されることになります。製品を製造する工場がなくなったり、商品を販売する商店がなくなれば、事実上、事業継続ができなくなります。
しかし、重要なのは、銀行など債権者は裁判を経てやっと競売を実行できる点です。つまり、裁判所に訴えてから競売が成立し、買い手から立ち退きが要求されるまで、通常は半年近く掛かるものなのです。つまり、この半年間は営業を継続できると言えます。しかも、銀行はすぐに抵当権実行の手続きを裁判所に申立てるとは限りません。したがって、通常は半年以上の時間があるものだと言っていいでしょう。
それゆえ、少なく見てもこの半年間で、工場や商店、倉庫の移転先を探すことができれば、倒産を回避できます。また、親族などにスポンサーがいる場合、工場や商店を買い取ってもらい、このスポンサーに家賃を払いながら事業を継続する例もあります。
破産・倒産を選択するにしても、半年間の猶予があるとは思っていて良いでしょう。
また同様に、連帯保証人たる社長の自宅が抵当に入れてある場合も、抵当権実行の手続きが取られることがあります。競売にかけられて第三者の手に渡ると、立ち退きを迫られることになりますが、やはり半年間の猶予があることは念頭に置いておくべきです。焦らず転居先を探すのが良いでしょう。言うまでもなく、住居は家族にとってもとても大切な問題です。いつまでも放置はできませんが、かといって焦りは禁物なのです。
仕入れ先への代金の延滞が続くと、原材料や商材などの納入が拒否されることがあります。これまで延滞している買掛金の代金を支払わなければ追加の仕入が認められないのです。
こうした場合の交渉は極めて厳しいものになります。まずは謝罪が必要ですが、これまでの買掛金全額は現預金が不足していて支払えないことを正直に打ち明けて、理解を求める必要がああります。
その上で、延滞した買掛金を借入金として借用証書を作り、今後の利払いと月々の返済を約束するなど誠意を尽くした対応が必要です。できれば、一部については弁済を免除して欲しいのですが、こうした交渉は難しいでしょう。
いずれにせよ、事業継続には仕入は不可欠なので、他の仕入れ先を探すなどを試みつつ、上のような交渉を成立させることが必須となります。もしも、これらがすべて上手くいかない状況に追い込まれたなら、そのときは残念ですが事業継続はできず、倒産となります。
出社拒否された社員が少数である場合、事業継続に支障がないことも考えられます。しかし、多数に上ったり、キーパースンが複数含まれている場合は極めて厳しい状況です。説得をしたとしても、応じられる可能性は低いでしょう。
仕入れ代金の支払延滞もそうですが、従業員への給与支払の遅延は、交渉が難しい事例になります。他の支払を止めてでも、これらの支払は優先しないと事業継続ができないと言えます。
消費税や源泉所得税、事業所税、固定資産税などの支払が延滞すると、銀行口座が差押えられることがあります。年金事務所も社会保険料の滞納が続くと、銀行口座を差押さえて延滞金の納付に充当します。
銀行口座の差押えとは、債権者によって銀行にある会社の預金が滞納している税金や社会保険料の支払に充当されることです。銀行口座の預金額が税金や社会保険料の延滞額よりも多ければ、当然ながら銀行には残高が残りますが、不足していれば全額充当されて残高はゼロになります。結果的に、支払を予定していた仕入代金や給与などの支払に支障が出ることになります。
税務署や年金事務所などの銀行口座差押えに対処するのが難しいのは、仕入れ先企業や銀行などの一般債権者と違い、裁判手続きを経なくても差押えを実行できるためです。
前述したように、工場や倉庫が銀行の抵当に入れられている場合でも、債権者は裁判をしなければ競売にかけることができないため、半年間ぐらいは事業を継続でき、色々と検討する猶予もありました。しかし、税務署や年金事務所は裁判をせずに預金の差押えができるので、いつ差押えが来るか分からず、差押さえられた時は後の祭りということが多いのです。しかも、どの預金口座が抑えられるかも分からないため、対処は非常に困難です。
対応方法としては、税務署や年金事務所とは常にコミュニケーションを取っておくことです。できれば、換価の猶予を認めてもらいます。換価の猶予を申請し、認めてもらえれば、少なくともその期間は差押えは来ません。
しかし、延滞額に比べて月々の弁済額が小さすぎたりすると、換価の猶予が認められないこともあります。そうした場合でも、1ヶ月に2回ぐらいは足を運び、その都度延滞額のうちいくらかでも受領してもらえるようお願いするなど、誠心誠意の努力が必要です。それでも、銀行などと違って、税務署や年金事務所には温情はないと思っていた方が良いでしょう。現実は担当者次第ですが、まったく取り付く島のない状態になることも珍しくないからです。
こうした場合は、差押さえを覚悟し、現金を余計に持っておくなどの対処しか手段がありません。これで差押え後の資金繰りが十分に手当てできなければ、事業継続はできず、倒産を決めるしかありません。
さて、これまで見てきたように、事業継続、つまり事業再生のチャンスは僅かですが残されていることが分かりました。しかし、更にもう一歩問いを進めてみましょう。それは、倒産回避、つまり事業継続は仮に可能だとして、「事業再生の見込はないのか」、つまり再生の確度はどのくらいなのか、という疑問です。
倒産前夜、銀行融資の期限の利益は失い、連帯保証人たる社長にまで債務弁済の請求が来ている中で、時間的猶予はほとんどありません。確実に黒字化できなければ、すぐにでも資金繰りは尽きて倒産してしまいます。
そこで、まず第一にほんの数ヶ月で確実に黒字化できる商品や事業はないか、検討します。もしもこれがあるならば、そのために必要でないものはすべて廃止します。
黒字化可能な商品や事業以外は全て売却してお金に換えます。この仕事に携わらない社員には辞めてもらいます。従業員数が減少して狭いオフィスで済むなら、転居して家賃を浮かせます。不要な商品を売却して空いた倉庫は解約します。
これらのことをして、すぐにでも黒字化が達成できる商品や事業がないならば、事業継続は不可能であり、したがって事業再生も出来ません。一時的な資金繰りの維持、黒字化ではダメなのです。
仮に黒字化が可能な商品や事業があったとしても、年間を通して資金繰りが維持できなければ意味がありません。
建設業やソフトウェア開発業など、一時的に大きな収入があっても通年で安定収入が見込めないような事業の場合、資金繰りがボトムになったときでも維持できる見込があるか慎重に検討する必要があります。
季節的な変動による資金繰り難であっても、税金や社会保険料の延滞があったり、銀行融資の期限の利益を失っている会社に新たに融資する金融機関はありません。それゆえ、その一時的な資金繰り難を乗り切るには、ファクタリングなどといった緊急の資金調達しか手段がありません。これらの手段には言うまでもなく高額な手数料が掛かります。それを超過する利益は産出可能でしょうか。そのボトムの時期を乗り切る資金計画が成立するかどうかしっかりと検討する必要があります。
仮に資金をプールしておくことが可能だとしても、銀行など債権者がその資金に目を付けて返済を迫ってくることは避けられないし、税金や社会保険料の滞納がある場合は預金差押えリスクがあります。
こうしたことも考慮しつつ、季節的要因による資金繰りのボトムの時期をつなぐ手段がなければ会社は倒産します。一時的に事業継続できても、事業再生は不可能なのです。
信じられないかも知れませんが、倒産前夜と言ってもいい経営危機の状況は、実は資金繰り上は最も有利な状態にあると言えます。
冷静に考えてみてください。銀行から期限の利益を切られ一括請求がなされても、返すお金がありません。いつまでも放置できるわけではありませんが、一時的に放置している状態ですから、返済はもちろん金利も支払っていません。ひょっとしたら、税金や社会保険料、社員給与も同様に延滞しているかも知れません。
だから倒産前夜の最も厳しい状態は、逆説的ですが、実は請求や督促が来ているだけで実際の支払はしていないので、支出は少なく、資金繰り上は最も有利な状態と言えるのです。倒産を回避し、事業を継続させるだけならば、資金繰り上は最も有利な状況です。
しかし、こうした請求は、いつまでも放置できません。いずれ対処しなければならず、そのときは、債権者の温情で分割が許されたとしてもかなりの資金繰り負担になることは間違いありません。しかも、期限の利益の切れた銀行借入や、延滞している税金、社会保険料には10%~15%程度の遅延損害金が掛かります。遅延損害金は債務免除の可能性がありますが、元本に債務免除が及ぶと、いずれにせよ社長の経営責任が追及され、社長は退任しなければならなくなります。
それゆえ、社長が現職に残ることを前提とするなら、元本と数パーセント相当の金利の支払は最低限度できなければならないのです。つまり、倒産前夜に一時的に資金繰りが良くなったとしても、それは払うべきものを払っていないから良くなっているに過ぎないことを忘れてはなりません。
それゆえ、仮にその時点で事業継続が出来たとしても、将来的にこうした債務を弁済しうる事業に蘇らせることは可能なのか、慎重に検討する必要があります。一時的な事業継続だけではなく、通年で資金繰りが維持できたとしても、仮にその黒字事業がこうした債務弁済が可能な状態まで収益改善する見込がないならば、少なくとも現社長による事業再生は不可能と判断すべきでしょう。こうした企業は、事業規模に比して大きな債務を抱えすぎていると判断すべきなのです。
したがって、事業再生のためには債務免除が不可欠ですが、上述のようにそれは社長退任を意味しています。こうした場合、残念ですが、社長は経営権を譲渡し、スポンサーによる事業再生を目指すべきということになります。
もしもスポンサーがいないならば、残念ですが倒産もやむを得ないでしょう。
これまで見たように、一時的な事業継続ではなく、さらにこれを事業再生に結びつけるというのは、実際はかなり至難の業だと言うべきでしょう。しかし、それは必ずしも不可能ではないし、実際に私はそれを成し遂げた経営者を複数見てきています。
しかし、現実にはその難易度の高さゆえに、事業継続を諦め破産など債務整理の道を選ぶ経営者が圧倒的多数であることは言うまでもありません。仮に事業再生そのものは諦めなかったとしても、多くの経営者がスポンサーによる事業再生を選びます。
それは、どうしてでしょうか?
答えは、倒産前夜という経営危機にまで陥った社長が事業再生を目指すのは極めて難しく、失敗のリスクが高いからです。再度、前項までのチェックをしてみましょう。
また、破産をするのにもお金が掛かることは忘れるべきではありません。さらに、破産などの倒産処理、つまり債務整理は、社長とその家族の再生のプロセスにすぎないことを忘れてはいけません。社長とその家族の生活はその後も続いていくのです。どんな意志決定をするにせよ、余力を残しておくことの大切さは理解して頂きたいと思います。
それゆえ、上のような状況に会社が陥った時、事業継続、つまり事業再生は極めて困難だと多くの経営者は判断し、破産など債務整理の道を選びます。
ここでは、事業継続を諦めて倒産処理、つまり債務整理を選択する場合、破産しか選択肢はないのか、破産が最も良い選択肢なのかという疑問に答えていきます。事業継続をして再生を目指す場合は、どのような債務整理の手法があるかは次章で解説します。
事業継続を諦めて債務整理をする場合、最も重要な手段は破産です。破産の流れとメリットやデメリットについては前章で解説しましたが、これと同様の債務整理を裁判所を介さずに代理人弁護士に任せる手法があります。これを私的整理による倒産処理と呼びます。
私的整理とは任意整理とも言い、法的整理に対する用語です。法的整理とは、破産のように裁判所の管理監督の下で進める債務整理のことで、厳格な手順によって行われるため公正性が担保されます。これに対して、私的整理は裁判所が介入せずに、したがって債権者と債務者とが直接話し合って進めていく債務整理のことを言います。柔軟性には富みますが、公正性を担保するのが難しい手法なので、債権者の同意をとるのが難しい手法だと言えます。
私的整理による倒産処理の目的は、破産と同じです。支払不能になった会社のすべての債務を整理します。と同時に、連帯保証人たる社長にも会社が払いきれなくなった債務の連帯保証責任が発生するので、これを処理します。やはり自己破産と同様に、社長は個人財産をもって償う必要が生じます。会社や社長の財産を換金し、公平に債権者に配当して処理は終了となります。
しかし、私的整理による倒産処理は、下に見るように自由裁量による点も多く、債権者との話し合いなど代理人弁護士の力量も問われるため、受託してくれる弁護士が珍しいというのも注意点です。ですが、受託してくれる弁護士が身近にいるのであれば、選択肢の一つとしてあって良いでしょう。
破産と私的整理による倒産処理の重要な違いは、次の四点です。
破産の場合は、破産管財人が入って会社と社長の財産を管理し、これを換金して債権者への弁済に充てました。このため、社長に残される財産は99万円以下の現金預金と生活に必要な家財一式しか残りませんでした。これは裁判所の監督の下、厳しく実行されるので、社長の要望が入る余地は全くありませんでした。
これに対して、私的整理による倒産処理では、裁判所は介入せず、破産管財人も入ってきません。すべては代理人弁護士と社長が判断し、これを債権者に提示して認めてもらえるかどうかの話し合いによることになります。
それゆえ、破産手続きのような杓子定規は免れていると言えるでしょう。公正さを失わない範囲だと代理人弁護士が判断すれば、前向きに債務者側の提案を話し合ってもらうことも可能になります。ただし、これを銀行など債権者が承認するかは不透明です。
たとえば、高齢の社長が抵当に入れてあった自宅も手放し、老人ホームに入居するとしましょう。入居金300万円を残してもらうことはできないでしょうか。破産ならば99万円以下の現金預金と家財道具一式しか残りません。この300万円のうち201万円は本来は弁済に充てられなければなりません。ですが、債権者との話し合いの結果がどうなるか不透明ですが、全く希望がないわけではないかもしれません。
破産の場合、会社と社長個人の財産は破産管財人の管理下に置かれ、換金したお金を破産管財人の決定に従って債権者に弁済しなければなりませんでした。ところが、この弁済には法律や契約に定められた優先順位があり、残った金額がその他の優先順位の低い債権者に配当されることになっています。
私的整理による倒産処理でも事情は同じです。この優先順位は法律や契約で定められたものなので、原則として変更することができません。
優先順位の一番は、税金や社会保険料です。次が社員の給与で、それ以外の仕入れ先の買掛金や銀行からの借入金は最も優先順位が低いと決まっています。
しかし、こうした場合でも自由裁量の余地は私的整理による倒産処理の場合は、やや多く残されていると言っていいでしょう。これも代理人弁護士が公正さを失わないと考える範囲に限りますが、たとえば少額債権者は優先的に弁済するなどの措置を講じること可能かも知れません。
いずれにせよ、やはりどこまで債権者が承認するかは不透明ですが、話し合いの余地は残されています。
破産手続きは完了すると、裁判所は「免責」を認めることになりました。「免責」とは、債務者の一切の債務を帳消しにすると裁判所が許可することを言います。これは裁判所の決定ですから、銀行や仕入れ先など債権者は不平不満があっても絶対に守らなければなりません。「免責」以降、債権者が債務者に借金の返済を迫ったりすることは一切できないのです。
これに対して、私的整理による倒産処理では、裁判所が介入しないため、債務整理について債権者と代理人弁護士の間の話し合いに決着が付いても、「免責」がありません。だから、話し合いによる決定と言っても、かなり緩いものにしかなりません。最悪のケースでは、一旦債権者に承認された内容が、再度蒸し返されることもないわけではないかも知れません。実際にそうした事例が多いとは思えませんが、少なくともこうしたリスクは少なからず残ると考えるべきでしょう。
とくに債権者に暴力団など反社会的組織が含まれるケースでは、私的整理による倒産処理では弱く、破産を選択すべきだと言えます。また、債権者の数が多く、事実上、話し合いが困難である場合も破産を選択するべきでしょう。たとえば、前払いを受けた受講生が多数いる英会話教室や、やはり前払いを受けた顧客が多数いる旅行代理店の倒産処理は多くの場合、破産手続きによります。
また、注意点としては、私的整理による倒産処理では必ずしも全ての債権者の同意が得られるとは限らない、という点があります。仮に同意が得られたとしても、「免責」という裁判所の強制力のある債務免除はありません。
それゆえ、社長の死亡後に財産の相続が行われると、過去の残債務も相続人に引き継がれてしまう恐れがある、という重大な問題があります。
このため、債務整理に至った場合、財産を社長は生前からなるべく持たずに子供たちの所有として、死亡時には相続対象となる財産を少なくなるように工夫した方が良いでしょう。そうすれば、子供など被相続人は、相続放棄して債務を引き継がないようにすることができます。
会社が破産し、連帯保証人たる社長が自己破産を選択すると、すべての債務は帳消しになりますが、社長は「破産者」と呼ばれるようになります。「破産者」は官報に掲載されて、その後も調べると誰でも社長が「破産者」であると知ることができるインターネットの上のサイトがあります。
このサイトは個人情報保護法上も悪質で問題があるとされていますが、現時点ではまだ運用されています。借金からは逃れられますが、現時点では「破産者」のレッテルからは逃れられないのです。
では、「破産者」のレッテルが貼られることにどのような実際上の損害があるのかというと、これはかなり曖昧な面がありますが、下のようには言えるでしょう。
まず、詳細は後ほど説明しますが、住宅ローンなど新たに借金をすることが「破産者」には難しくなることがあります。このため、新たに会社を設立し、そこでもう一度社長職に復帰しても、連帯保証人になれないため、会社は借金ができない、なんてことになりかねない。アメリカの上場企業経営者のうちかなりの割合が「破産者」ですが、日本の事業環境ではなかなか再チャレンジが認められにくいのです。
もちろん、こうした日本社会の風習には問題が多く、都道府県など各地方自治体には「再チャレンジ制度」などといって「破産者」が新たな借入をして会社経営をすることを支援する制度もあります。しかし、こうした支援制度も「破産者」に厳しい日本社会の裏返しであることは間違いありません。
また、会社経営者にならなくても、これも後に詳述しますが、通常の消費者として「破産者」はクレジットカードを作るのにも苦労する、などの弊害もあります。住宅ローンや自動車ローンどころではないのです。
見えにくいところですが、社長本人の自尊心や名誉などといった心情的問題も少なからずあります。とくに地方都市では噂になりやすく、地元の名士として長年活躍してきた社長にとって「破産者」のレッテルは第三者が想像する以上に厳しいことも予想できます。
倒産前夜、銀行や仕入れ先からの支払請求が厳しい経営危機に陥ると、破産や私的整理による倒産処理といった債務整理を避けるのは難しくなります。事業継続そのものがこのままだと困難な状況です。
しかし、こうした場合でも、当社の事業の中に黒字の見込める優良事業が含まれていれば、それをスポンサー企業に譲渡し、会社は倒産して消滅するものの、優良な事業そのものはスポンサーのもとで生き延びることが可能なケースもあります。
このスポンサーが社長にとって第三者である場合もありますが、実の子供であったり、その他の親族であるケースもあり、その場合は社長は退任しても、実質的には事業が新会社に親族内承継されたのに近い意味を持ちます。この新会社は、現会社とは全くの別会社として設立するので、無借金で事業を引き継げるというメリットもあります。
こうした事業再生は第二会社方式として知られていますが、様々なスキームで実行されうるものです。たとえば、公的な中小企業支援組織である「協議会」(※中小企業再生支援協議会のこと。2022年4月に中小企業活性化協議会に改組した。)を用いた私的再生スキームや民事再生法を活用した法的再生スキームが代表的です。これらの中には、会社も存続させるケースがあります。
しかし、こうした会社存続のスキームは、破産・倒産を視野に入れなければならないような重度の経営危機に陥った会社では多くの場合、成立しがたいと言えます。というのも、こうした窮境にある会社の多くは、税金や社会保険料の延滞額が大きいからです。こうした債務は優先弁済が法律的に定められており、しかもこれまで見てきたように差押さえのリスクが隣り合わせであるようなものです。こうした債務があると、スポンサーが事業を購入しても、すぐに預金差押さえが実行されてしまうかも知れません。その意味で非常にリスクが高いので、仮に銀行など金融機関が債権放棄に応じたとしても、スポンサーへの株式譲渡は実現しにくいのです。スポンサーはこうしたリスクを取りたがりません。
また、簿外債務の可能性が見え隠れしている会社では、株式譲渡によって会社を引き受けてしまうと、存外の債務までスポンサーが負担しなければならないリスクがあります。同様に、虚偽決算・粉飾決算などで決算書等が実態と大きくかけ離れている場合も、スポンサーは引き継ぎたいとは考えないでしょう。
したがって、こうしたケースでは、清算型第二会社方式、つまり現行の会社は破産するなどの倒産処理を実行し、これに伴って事業譲渡をスポンサーに対して実行する、という方法を採ることになります。会社は残らないが、事業は残す、というスキームです。
これは、スポンサー企業に事業譲渡をした後に破産申立てをするものですが、このスキームのリスクは破産管財人が譲渡価格を「否認」することがある、という点です。
「否認」とは、破産管財人が適切な取引として承認せず、取引前の元の状態に返せと命令することを言います。もしも破産手続きの中で、こうした命令が破産管財人から出たならば、これに従わなければなりません。
つまり、このケースの場合、譲渡価格が安すぎて、債権者に対する配当が少なくなってしまうので、破産管財人が「否認」をしている、ということになります。立ち行かなくなった会社の一部事業を譲渡することそのものは、不正なことではありません。むしろ、その事業に携わる従業員の雇用を守り、少しでも譲渡収入を得て債権者の配当を増やそうという意味で、社長の経営者としての責務を全うしたものと評価することもできるでしょう。ところが、事業譲渡価格を適切に定めることは難しいため、結果的に安すぎると破産管財人が判断したというのがこのケースになります。
もちろん、こうしたリスクを軽減するために、譲渡価格は公認会計士に決めてもらうなど、最善の策を講じておく必要があります。しかし、スポンサーは少しでも安く買いたいと考えるのが普通なので、なかなか思うようには行かないのです。結果的に破産管財人に認めてもらえない「否認」のリスクを完全に払拭することはできません。
もしも仮に「否認」された場合、破産管財人が指定した金額との不足額をスポンサーに支払って頂くことで事業譲渡が成立します。そのため、事前にこうしたリスクをスポンサーと腹を割って話し合っておくことが必要になります。
これに対して、破産申立て後にスポンサーに対して事業譲渡を実行する場合、破産管財人が承認した譲渡価格で行うので、こうした「否認」のリスクはありません。
しかし、これに替わるリスクとして事業価値毀損のリスク大きくなります。つまり、これまで見てきたように、原則として破産申立ては「営業停止」の後に行うので、この間、従業員は仕事がなくなるし、お客様にも納品ができないために、本来あった当社の事業価値が下がり、スポンサーにとって魅力のない事業になってしまう可能性があるのです。
このリスクを軽減するには、「営業停止」の期間をできるだけ短くすることに尽きます。第一の手段としては代理人弁護士と調整し、事業継続をしたまま破産申立ての準備を進めることです。仮にそれが可能でも、破産手続きが始まると裁判所は業務停止命令を出すので、いずれにせよ「営業停止」は免れません。しかし、これも代理人弁護士と破産管財人、スポンサーが事前から話し合いをすることでできる限り期間を短縮して、スポンサー企業への譲渡を実行するのです。
こうした調整は決して容易なものではありませんが、事業価値の毀損をできる限り小さく抑えることは、スポンサーにとってメリットがあるばかりではなく、高い価格で譲渡できる結果にもなるので債権者の配当も増えます。関係者全てにメリットのあることなので、成功の可能性がないわけではありません。
以上の第二会社方式は、現会社の倒産処理を破産手続きで行うケースでしたが、前章で見たように破産を回避して私的整理で倒産処理を行うことも可能です。
しかし、これは裁判所という第三者の承認や監督なしで行うスキームになるので、代理人弁護士に大きな負担が掛かります。債務者は代理人弁護士のアドバイスのもと、できる限り公正さを保った債務整理を心掛けなければなりませんが、このスキームには、これを検証する第三者がいないのです。譲渡価格の算定には公認会計士を使うなどは最低限ですが、恐らくそれでも銀行など債権者からは厳しい追及があると考えた方が良いでしょう。
いずれにせよ、このスキームはグレーであるのは免れないし、債権者の承認を得ることができるか否かも不透明であるほかありません。しかし、採りうる手段の一つであることも間違いありません。それゆえ、このスキームの難易度は高いものになりますが、これによって完了した第二会社方式による事業再生も実際は数多くあります。
中小企業の場合、会社が破産すると、連帯保証人たる社長は会社の債務の弁済を請求されます。しかし、通常はそれに十分な個人資産を社長は持っていないため、自己破産することになります。
自己破産とは、裁判所が選任した破産管財人が入って、社長の個人財産を管理し、換金して銀行など債権者に対する配当額を決めて実行することです。これにより、免責と言って、社長個人の借金は帳消しになります。また、会社の連帯保証債務だけではなく、社長個人が借入れたカードローンや住宅ローンなどの債務も帳消しになります。
ところが、社長はその後も生活を続けなければならないため、最低限度の生活に必要な財産は手元に置いておくことが許されています。以下では、まずはじめに社長とその家族が具体的にどのような経済的影響を被ることになるのか確認していきます。
社長個人の所有の99万円以下の現金預金は手元に置いておくことが許されます。それを超える現金預金は債権者への弁済に充てなければなりません。また、社長本人の名義の財産が対象となるので、配偶者や子供、両親など親族家族の現金預金は関係ありません。
社長個人名義の自宅は処分し、債権者への弁済に充てることになります。賃貸住宅であればそのまま住み続けることができますし、社長本人名義の財産が対象となるので、配偶者や両親の名義の自宅が処分の対象になることはありません。
問題は社長名義の自宅に住宅ローンが残っているケースですが、この場合は売却して住宅ローン返済に充て、残った金額を債権者への配当金の原資とするのが原則となります。したがって、この場合、こうした手続きが完了するまではその自宅に住み続けることもできますが、最終的には立ち退かなければならなくなります。
ややこしいのは、この住宅ローンに配偶者や子供、両親など家族の連帯保証人がいる場合です。自己破産して社長が払いきれなくなった住宅ローンはこれら連帯保証人が支払の義務を負いますが、もしもこれらの家族に支払うことができる財力があれば、その自宅に住み続けることも可能です。
同様に、住宅ローンが残っていない場合でも、社長名義の自宅は競売にかけられますが、こうした家族や親族に財力があれば落札し、引き続き自宅に住み続けることが可能です。落札できる確率は、家族が入札する価格が高いほどその可能性が上がるので、家族の財力に応じて上がると言っていいかもしれません。
以上見てきたように、自宅が社長名義の場合、これを残すのは困難な問題ですが、問題解決の鍵になるのは家族の財力だと言えます。
自動車ローンの残債がなく、時価が20万円以上である場合、処分の対象となるのが原則です。しかし、これも社長本人名義の自動車に限るので、配偶者や子供、両親の所有名義の自動車はその対象ではありません。
冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、テーブル、椅子など日々の生活に必要となる家財道具一式は、華美なものでない限り、所有することが認められています。ただし、洗濯機などが複数あったりする場合などは処分の対象となることがあります。また、贅沢な嗜好性の高い家具も処分の対象となることがあります。
携帯電話本体の分割代金が完納されていて、滞納がなければそのまま使うことが可能です。これもまた、社長本人名義の携帯電話に限るので、家族名義の携帯電話はそのまま使えます。
破産を申立てると、破産手続き開始の時と免責許可が下りた時の2回、住所氏名等が官報に掲載されます。しかし、官報をチェックしている人は多くありません。金融関係、信用情報機関、不動産関係、警察、税務署などです。これ以外の人が官報を見る機会はほとんどないと言ってもいいでしょう。したがって、親族や友人、会社の同僚などが知る機会はほとんどないと言えます。
しかし、インターネットには「破産者」を特定するサイトがあり、これを利用すると簡単に特定されてしまうのも事実です。こうしたサイトは個人情報保護法の観点から悪質で問題があるとされていますが、現時点ではまだ運用されています。興味本位でこうしたサイトにアクセスした場合、親族や友人に知られてしまうリスクは皆無ではありません。
しかし現実には、本人や家族がちょっとした時に口にしてしまい、それが元で噂になってしまうケースが多いようです。相談する友人知人などを選ぶ際には、口の堅い、信頼の置ける人を選ぶ必要があるでしょう。
また、残念ですが、官報は暴力団など反社会的組織も見ていると言われています。「破産者」という社会的弱者を食い物にしたいという目的からの悪質な行動ですが、事実上、止める手段はありません。こうした反社会的組織が不動産業者などと情報を共有し、競売情報などをいち早く掴んで商売をしており、こうした人々が噂を広めていることも考えられます。
住民票や戸籍には載りません。そこから他人に知られることはありません。
選挙権がなくなることはありません。
年金はそのまま受給できます。ただし、破産申立てをすると、借入金のある銀行の口座は凍結されるので、年金の受取口座がその口座になっている場合は予め変更しておいた方が良いです。
また、生活保護が受給できなくなると心配する人がいますが、これもあり得ません。
処分の対象となる財産は社長名義のものだけです。配偶者や子供など家族の名義の財産には全く影響がありません。
破産申立てをすると、信用情報機関に名前が登録され、クレジットカードは使えなくなります。このため、携帯電話やETCの利用料金をクレジットカードで支払っている場合は、支払方法変更の必要が生じます。
信用情報機関は日本には三社あります。全銀協(KSC)、CIC、JICCですが、それぞれ破産者の名前が登録されている期間が異なるので、結果的には5年から10年の間はクレジットカードは使えないし、新しく作ることもできません。住宅ローン、自動車ローンなどの借金もできません。
したがって、免責から最長で10年経つとこれらの信用情報機関からは名前が消えます。その後は、原則としてクレジットカードを作ったり、ローンを組んだりはできるはずですが、銀行など金融機関に名前が残っているケースがあります。たとえば、破産をした際に借入があった銀行には、名前が残ってしまっている場合が多いのです。こうしたケースでは、その銀行の判断によりますが、その銀行からはやはりクレジットカードを作ったり、借入ができなかったりすることも珍しくありません。
まず強調しておきたいのですが、破産しても、その時点で住んでいる賃貸住宅から追い出されることはありません。引き続き住んでいけます。ただし、家賃の延滞などがある場合はその限りではありません。
したがって、破産してもそのまま住み続ければ良いのですが、何か都合があり、引っ越しをして新たな貸主(大家)と賃貸契約を結ばなければならなくなった際に不利になることがあります。
新たな賃貸契約を結ぶには審査がありますが、審査は貸主(大家)と家賃保証会社が行います。貸主が信用情報機関(KSC、CIC、JICC)の情報を見ることはありませんが、家賃保証会社が見ることがあります。とくに信販系の会社は必ず確認するので、これらが家賃保証をしているケースでは審査が通らないことがあります。
このため、新たに賃貸契約を交わす必要が生じた場合は、仲介する不動産会社に家賃保証会社がどこか確認してみましょう。信販系ではなく、日本家賃保証、全保連、CASAなど家賃保証専門の会社で契約ができるのであれば、そちらを使った方が審査は通りやすいでしょう。
ただし、こうした心配も最長10年間の信用情報機関の登録期間が過ぎれば問題がなくなっていきます。
中小企業経営者の多くは、銀行など金融機関から融資を受ける際に、連帯保証契約を交わします。これは、もしも会社が支払ができなくなり、破産など債務整理に至るような事態に陥った場合に、替わりに債務の弁済を引き受ける約束です。しかし、言うまでもありませんが、会社の運営に必要とした借入金は巨額で、普通は個人で弁済することはできないので、会社が破産すると社長も自己破産することになります。
こうした事態に備えておくにはどうしたら良いでしょうか。
自己破産して最も困るのは社長本人に間違いがありません。しかし、配偶者や子供、場合によっては高齢の両親も困ってしまうことがあります。実は、自己破産しても困らないようにするには、こうした事実に解決のヒントがあります。
自己破産して困るのが社長だけではないのなら、逆に、配偶者や子供など家族の資産形成を充実させることを目標にするのが良いのです。家族の保有資産が充実していれば、社長が万が一自己破産しても、困ることは最小限に抑えることができるからです。とくに自宅の保全を図っておくことはとても重要です。破産した場合に、自宅はどのようになるかを再度確認し、是非、事前に構想を練っておいてください。
これは、会社の経営が順調にあり、十分に儲かっている時にこそ備えておくべき心構えです。もちろん、会社経営の第一の目標は社長本人の役員報酬を増やしていくことで構いません。ですが、その目標がある程度達成されたなら、次は配偶者や子供、両親など家族の資産形成を目標にするのです。そして、その次は会社そのものの資産を増やすことを目標にします。会社の資産が増えれば倒産しにくくなるのは言うまでもないからです。
絶対に止めるべきなのは、社長本人が財産を一人で丸抱えすることです。万が一の時、全てを失い、配偶者や子供たちも困ってしまいます。上の順番で目標を設定し、通常から会社経営に尽力すべきだということになります。
また、会社の資産と社長を含む家族の個人資産の分離を徹底しておくことも大切です。たとえば、工場の二階に会社名義の自宅があったらどうでしょうか。万が一、会社が倒産し破産手続きに入った場合、住居は奪われてしまい、社長本人はもちろん家族が困窮することになります。
会社への貸付金が多いのも問題です。会社が倒産したら、その債権は弁済を受けられません。中小企業経営では、経営者が運転資金として短期資金を出し入れするのはよく見受けられますが、その金額には上限を決めておくのが良いでしょう。
このように、日頃から、つまり会社経営が順調なときの心構えが大切です。逆に、もしも少しでも会社の経営状況に不安があるならば、今からでも考え方をチェンジし、これらに着手するのが良いでしょう。
第一に、会社経営の戦略的目標設定として、社長本人の資産形成だけではなく、家族の資産形成を追加することです。第二に、会社の資産と社長を含む家族の個人資産の分離を徹底する財務戦略を選択すること。この二点が大切です。これらをしておけば、会社倒産による損害を最小限に食い止めることができます。
この記事は、破産についての法律知識を伝えることを目的としていません。最低限度の知識を基礎として、それに基づいた中小企業の会社経営の戦略について解説したものです。
これまで見てきたことをまとめてみましょう。
まず第一に、会社の経営状況が順調な状態にあるときから、戦略的目標設定の必要があります。会社経営の目標として、社長の個人資産の形成を目指すのは間違いではありませんが、同時に家族の資産形成についても目標にすることが大切です。また、経営者の個人資産と会社資産の分離を進めておくことも大切です。
同じ企業でも、上場企業はかなり倒産しにくいと言えます。それは株式市場から返済不要の資本が調達ができるという面もあるし、企業規模が大きいため、会社が恒久的に存続するために必要な様々な業務を実行しているからだという面もあります。それは、たとえばブランディングを目的とした広告戦略であり、長期雇用を前提とした賃金制度や人事制度、人材教育です。長期展望に基づいた事業立地の選択と設備投資、研究開発や新規商品開発、新規事業も会社の恒久的成長を支えるには不可欠です。こうした事柄は、当面の利益には全く貢献しない場合がほとんどです。しかし、こうした努力が会社を恒久化し、たとえ経営が左前になっても不採算事業を売却したり、リストラクチャリングをしたりすることで乗り切ることができるのです。
逆に、こうした業務のない中小企業は破産・倒産と隣り合わせです。その代わり無駄なコストをかけていないので、上手くいっているときは大きな儲けが期待できます。実際、上場企業をはるかに超える役員報酬を得ている中小企業経営者も少なくありません。しかし、こうした順風満帆な時期は余り長くは続かないものであるのも事実です。
それゆえ、普段から戦略的に経営目標を決め、会社資産を個人資産から分離しておく財務管理が必要なのでした。上場企業であれ、中小企業であれ、会社経営が順調なときの経営のあり方が、実際に経営危機に陥ったときの選択肢に大きく影響すると言って良いでしょう。
また、破産・倒産の危機に直面したときも冷静な経営判断が不可欠です。「頑張っているんだから、どうでもいい」といった乱暴な姿勢だと、連帯保証人たる社長とその家族は大きな犠牲を払いかねないし、事業継続、つまり事業再生のチャンスを失うことにもつながります。会社の債務整理をするタイミングはいつが良かったでしょうか。第二会社方式などのスキームによる事業再生のチャンスはいつまで残っていると言えたでしょうか。余力は残しているでしょうか。
これらはすべて微妙で複雑な経営判断を必要とするものでした。それゆえ、まず最も大事なのは、経営危機の状況にあっても、会社経営者として自分を冷静な判断のできる状況に置くことです。そうした状況を選び取ること。こうしてはじめて、経営者は安心して会社経営に取組むことができ、最後の最後までチャンスを活かすことができるからです。
この記事は、中小企業経営者のそうした理解を促すために執筆したものです。是非、皆様の会社経営に役立てて頂けたらと願っています。
多様な業界経験と、豊富な実績をもった事業再生のエキスパートが、貴社をサポートします。
生井 勲Namai Isao
株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント
1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。