事業再生や経営再建に関することで、お困りではありませんか?
多様な業界経験と、豊富な実績をもった事業再生のエキスパートが、貴社をサポートします。
この記事は、中小企業経営者の皆さんにとって「ゼロからわかる事業再生ガイド」です。
事業再生の基礎知識、企業再生との違いや、多様な手法の整理、再生できる会社の条件や、手法ごとのメリット・デメリット、実際的な手続きや事業再生の流れに至るまで、わかりやすく解説します。
事業再生とは、シンプルに言うと、経営難にある企業が「事業」を存続させて、再び輝きを取り戻すための方法です。もっと際どく言えば、ギリギリのところで「生きの延び、ふたたび成長していく基盤を作る」ための方法です。
中小企業や中堅企業を経営する皆さんが、諦めないで前を向くために「事業再生」は間違いなく有用です。
しかし、この領域の専門家でない経営者が、事業再生を何度も経験すること、その生々しい経営現場にくり返し遭遇することは、ほぼありません。この世界を知る機会が限られているのは当然でしょう。
事業再生が、苦境にある企業にとっての“福音”になりうるとしても、現実に事業再生を進めるには専門家の手を借りるほかありません。専門家を上手に利用してもらうために、できるかぎり明快な理解を手に入れて、この苦境に立ち向かっていただきたいと思います。
馴染みない世界だからこそ「中途半端な理解」に終わらないよう、なるべく平易に、体系立てて、大事な部分を解説します。
さらに、単なる知識におわらず、事業再生の「要諦」であり、成功の秘訣とも言える本質的な内容までお伝えするつもりです。
少々長いのは承知の上です。
最後までしっかりついてきてください。
「事業再生とは何か」を理解してもらうにあたって、はじめに、事業再生と密接に関係する「債務整理」について解説します。
会社が苦境に陥ると、銀行をはじめとした債権者の圧力が強くなり、債務について何らかの処置・整理しないことには事業の存続が難しくなります。債務整理は、再生を遂げる上で遅かれ早かれ避けられない、不可欠なものです。
しかし、より重要なのは、「事業再生と債務整理の本質的な違い」を理解していただくところにあります。それによって、「事業再生とは何か」「苦境にある経営者にとって何を意味するのか」を、深く理解できるからです。
債務整理は、「債務の処理(債権者から見れば債権の処理)」についての方法で、大きく「法的整理」と「私的整理(任意整理)」に分けられます。
これは手続きによる分類であり、裁判所が介入した債務整理の手続きの仕方が詳細に定められているか、それとも裁判所の介入を要せず、直接的な債権者と債務者の折衝による手続きかによって区別されます。
もう一つ大事な視点があります。
それは、債務整理の結果として「どのような状態を目指すのか」による区分であって、「清算型」と「再建型」に分けられます。
いわゆる「破産」の手続は清算型の法的整理で、「民事再生」の手続きは再建型の法的整理ということになります。私的整理においても同様で、清算型と再建型に分けられる、ということになります。
債務整理の分類で整理すると、事業再生の基本は、法的・私的いずれであっても「再建型の債務整理」によって事業の存続を目指そうとするものということになります。
例えば、よく知られる「民事再生」は、再建型の法的整理となりますが、民事再生法に基づいて、原則として債務者の主体的な努力によって事業の安定を図ることを目的としています。再生の多くのケースで「債権放棄」が求められ、債権者はその会社に対する債権を放棄していますが、この処理を債務整理と呼んでいるわけです。
債権放棄の他にも債務整理には様々な種類がありますし、債務整理の方法も民事再生ばかりではありません。再建型の私的整理による事業再生のケースも沢山あります。いずれにせよ、事業再生において債務整理は不可欠であり、どの手法を選ぶべきか、選択肢になりうるかは、状況によって様々です。
もちろん存続をあきらめることも選択肢の一つです。
その場合は「清算型」の債務整理を実施し、まずは会社が保有する資産や財産を「金銭」に変えます。その金銭を初めに債権者へ分配し、残る金銭があれば、株主に分配した後で会社をたたむことになります。
一方で、事業再生は、収益性や市場性、競争力のある事業を残し、採算の取れない事業を縮小したり改善をしたり、いっそ売却することによって、見込みのある事業の存続を目指すものです。そのプロセスにおいて必要不可欠なのが、「再建型の債務整理」ということになります。
原則として、事業再生は必ずしも会社をたたむ必要はありませんし、経営者が交代する必要もありません。
ただ、これはあくまでも原則論であって、債権者の協力を求めるために社長の退任が必要になるケースがあるのも現実です。新たな出資が行なわれる場合には、これまでの経営者(つまり株主)が責任を取り、新たな株主の意向を受けて、経営陣が刷新されることも珍しくありません。
時には、今ある会社をたたんでしまい、別会社に現在の事業を移管して継続を遂げる手法が選ばれることもあります。事業を再建するために現在の会社を倒産させるというものであって、先の区分からみると破綻していますが、事業再生の重要な手法の一つです。
事業再生が、かくもケースバイケースなのは、苦境におかれた企業の状況が多様だからです。事業再生の手法は、たくさんある上に専門的で、時と場合により選択肢も変わります。
はっきりしているのは、倒産を回避できるのは事業再生によってのみだ、ということです。事実上、倒産状態にある企業や、極端な経営不振にある企業が倒産を免れるには、事業再生の道を選ぶしかありません。
ところで、「事業再生」とよく似た言葉に「企業再生」と呼ばれるものがあります。
結論から言えば、いずれも法的な規定のある用語ではなく、明確な定義はありませんので、違いを厳密に理解する必要はありません。
実際にも、それほど区別されて使われておらず、強いて言えば、事業再生は「個別の事業の再生」に着目しているのに対し、企業再生は「企業全体の再生」に着目している点が異なります。
事業再生では「事業」の再生を目指すので、「企業」の存続は無視できます。先ほど説明した通り、会社をたたんでしまって事業だけを別会社に移して存続させる手法もあるのです。この場合、会社はたたんでしまうわけですから、「企業再生」とは呼びにくいかも知れませんが、「事業再生」とは言えるでしょう。
仮に、事業だけでなく会社も存続させる場合にだけ「企業再生」という言葉を用いるのだとすれば、「事業再生」はより柔軟性が高く、幅広い考え方を指していることになるのでしょう。
事業再生には通常、債務整理が不可欠です。しかし、債務整理は事業再生と同一ではありません。そもそも、債務整理とは、企業経営に限らず、カードローンに悩んでいる個人の債務者が対象となる場合も使われますから、負債を処理していく措置を一般的に指します。
事業再生では、ちょうどカードローンに悩んでいる個人の多重債務者と同様に、倒産の危機に瀕している会社が債務に苦しんでいるため、再生プロセスで債務整理が必要になってくるのです。
債務整理とは「再生」に至るための「手段」に過ぎません。しかし、事業再生の「たかが手段」でもありません。
事業再生が必要になっている会社は、ほぼ例外なく銀行をはじめとした債権者の圧力が強まっています。したがって、積みあがる債務に対処する手法として、何を選択するかは極めて重要です。
例えば、債権放棄を願い出てこれが認められれば、債務者企業の過剰債務はなくなり、経営状況は好転することが期待されます。しかし、債務免除は社長に対する責任の追及なしに、原則として実行されることはありません。
さらに、そもそも債権放棄を願ったところで、会社の状況次第でどんな手法でそれが実現できるかは違います。債権放棄にも様々な手法があるのです。
一方で、債権放棄を願わず、超長期での返済(たとえばDDSという手法があります)を選べば、社長本人の責任追及は緩和されますが、債務者企業は長期間にわたり、過剰債務に苦しむことになります。
債務整理は、会社の状況によって選択肢が変わりますし、その選択次第によって、会社や従業員、経営者本人のその後の状況を大きく規定します。まさに事業再生を条件づけるものでもあるのです。
しかし、だからこそ、手段ではなく「目的」が重要なのだ、というべきです。
どういうことでしょうか?
事業再生の「目的」とは、事業再生を通じて、最終的にどんな願いを実現したいのか明確にしていくプロセスであり、何をもって「再生」とするのか決めることです。
経営者には、多かれ少なかれ、これまで経営してきた「会社への想い」があると思います。
会社の再生のあり方によって、多くのステークホルダーが影響を受けます。
先代から続く歴史が重くのしかかることもあるでしょうし、長い付き合いある取引先企業のことが頭をよぎることもあるでしょう。従業員や家族の生活はもちろんのこと、何より経営者ご本人が、これから先の人生をどうしていきたいか。
これら会社に関わる多くの事柄に向きあうことなく、「望む再生の姿=目的」は決まりません。
債務整理は「大切な手段」ではあっても、けっして目的ではありません。
繰り返しますが、会社のおかれた状況から、可能な打ち手は制約を受けますし、どの会社にとっても共通の正しい手法などありはしないのです。再生の「目的」に照らしたとき、はじめてベストな手法がどれなのか、何を選び取るべきか、はっきりするのです。
一方、債権者である銀行の立場は異なります。
不良債権を放置して銀行経営はできないため、何らかの処置が必要になります。不良債権処理をする銀行にとっても、様々な債務整理の手法は「手段」です。しかし同時に、銀行にとっては債務整理が「全て」です。債務整理が「手段であり目的」です。そこに事業再生が入り込む隙間はありません。
立場からくるこの違いは明確にしておかなければなりません。銀行など債権者にとっては、不良債権の処分の仕方が決まればそれで仕事は完了しますが、苦境に陥った会社や従業員、家族、経営者本人はそうではありません。債務整理は手段にすぎず、再生が目的です。
いずれにせよ、会社が倒産の危機に近づくと、最終的に二つの選択が残されます。会社を清算して事業の継続を諦めるか、それとも倒産を回避して事業の存続を目指すかのいずれかです。
それでは後者の場合、どんなことをしなければならないでしょうか。最低限、しなければならないことを以下でまとめておきましょう。
事業再生を成功させるためには、過剰債務やキャッシュフローの見直しが不可欠なケースがほとんどです。したがって、これを回避しようとしたり、先送りし続けようとする場合、事業再生は進みません。
事業再生では、資金繰りが回るようになることが必要不可欠であるため、はじめにキャッシュフローを改善し、現金収入を黒字にする必要があります。
これは、一時的に、銀行にリスケジュール(返済条件の緩和)を申立てて月々の返済額を減額してもらったり、仕入先に振り出した手形のジャンプによって支払を後回しすることで行なわれます。
しかし、こうした措置は一時的なものに過ぎません。最終的には、複数の事業の構成や個々の事業の営業状態を変更することによって、会社として収益力を改善しなければなりません。再生手続きによって負債を無くしたとしても、資金繰りに困らないようにするために、これらの見直しは必須なのです。
また、過剰債務の見直しが必要なケースも多くあります。収益力が回復しても、過剰債務の返済にそのキャッシュフローが充てられてしまうなら、いつまでも経営は安定しません。
そうした状態では、投資資金も捻出できませんから、遅かれ早かれ設備老朽化などによって収益力にも悪影響が出てきます。固定資産の処分によって債務を圧縮したり、場合によっては債務免除を申出たりする必要があるケースもあります。
事業再生をするかどうか、できるかどうかを判断するにあたって、特に「法的な条件」は存在しません。したがって、現実的で、実際的な判断をするほかありません。
負債が無くなっても存続できない会社とは、たいてい収益力が弱く、慢性的に赤字で、キャッシュフローがマイナスから脱出できない会社です。こうしたケースでは、いかに廃業・倒産するかというのが重要な方針となることもあります。
例えば民事再生手続の場合、その事業が持つ「市場性」を重視する傾向があります。仮に、その会社が営んでいる事業自体が、市場にとって需要が低ければ、その事業を再生する社会的な意義を見出すことが難しくなります。企業は自然人ではなく法人ですから、社会的な必要がなければ存在する意義が見いだされずに存続不要とされるわけです。
その観点で、反社会的な事業や風俗産業の再生は困難といえます。風俗産業に社会的意義があるかどうかは議論の余地がありそうですが、ここではおきます。
逆に、社会的に有用な事業や需要のある事業、先代から築いてきた社会的な信頼やブランドが残っている事業は、「清算型」の手続ではなく、まず事業再生を検討するべきでしょう。
事業再生と企業再生の違いで説明したように、事業単体ではキャッシュフローを生み出せているし、ちゃんと社会的意義のあるものなのに、会社全体としてひどく問題があるというケースがあります。
たとえば、これまでの経営が杜撰で、記帳されていない負債(簿外債務といいます)が多かったり、粉飾会計が酷くて、適切に財務状態を把握することが出来なくなっているような場合です。
こうした実態にある会社をそのまま引き継ぐのは、むしろ余計なリスクを背負い込むことになりますから、第二会社方式という手法をとる場合があります。
これは、現在の会社とは別に新たに会社を設立し、その会社に設備や在庫、従業員などを移管して事業を継続し、問題を抱えた会社は清算して、解散させてしまうものです。この手法を採用するケースの場合、現経営者が総退陣となることが多く、残存させる事業を支援してくれる外部のスポンサーが、新たな経営陣を選任して事業を存続させます。
この方式に限らず、存続させる必要がある事業だけを残して、他はたたんでしまうことも事業再生においてはざらにあります。いずれにせよ、必要なもの、価値のあるものだけを残していくのが事業再生の基本的な考え方となります。
事業再生には債権者のなんらかの協力が必要です。
特に、企業の最大債権者(たいてい金融機関です)は負債の額が大きく、法的再生を進めるにはその同意が不可欠であり、私的再生においても、協力が得られなければ、再生は非常に困難なものとなります。
しかし、金融機関の協力が得られないからといって、それが会社の破産や倒産を意味するわけではありません。
実のところ、銀行口座が凍結されようと、工場など事業資産が差し押えられようと、必ずしも破産申立てなど倒産手続きを開始しなければならないわけではありません。
考えようによっては、破産や倒産に至っていないのであれば、再生のチャンスが残っていると見ることもできます。実際、ごく稀なケースですが、そうしたチャンスを活かして再生を果たした例もありますから。
ともあれ、やはり債権者の協力をとりつけることは再生のベースラインです。債権者の協力のない事業再生は、口座の凍結や事業資産の差し押さえから回復することを意味しており、それはかなり険しいものと言わざるをえません。
事業再生は、原則として債務整理を伴います。
債務整理には裁判所を介して手続きを進める「法的整理」と、債権者との直接交渉により手続きを進める「私的整理」が存在します。
債務整理の手法に対応して、事業再生にも「法的再生と私的再生」があり、私的整理(任意整理)による再生を「私的再生」、法的整理を活用した再生を「法的再生」といいます。
さらに、法によらない私的再生でありながらも、一定の規則にのっとり債権者と債務者の交渉を進めやすくする「準則型」があります。一方、中小企業の再生事例として圧倒的に多いのが、そうした規則によらない「非準則型」の私的再生です。
まずは法的再生と私的再生の特徴やメリット・デメリットを概観しつつ、私的再生の手法について順に解説していきます。
法的再生の代表的な手段として、「民事再生」が挙げられます。
民事再生は、民事再生法に基づいて行われる裁判手続きです。裁判所が介入して実行していくので、公正さが保たれると同時に強制力が働きます。この意味で、再生を目指す中小企業やその経営者にとって、最終的で、最強の方法です。
民事再生では、事業継続を可能にするため、事業資産を債権者から保全しながら、現存している負債を法的に整理して、事業を再建していきます。手続きの過程で作成する「再生計画」が一定数の債権者の賛同が得られれば民事再生は成立しますが、否決された場合は破産手続きに移行します。
民事再生法は、制定当初は、現経営陣が経営権を失わないまま主体的に経営再建を目指すものとして設計されましたが、現在では第三者スポンサーに経営権を移譲する内容の再生計画も増えており、この場合では経営者は総退陣となるのが通例です。
大企業でも民事再生の活用は行なわれており、百貨店のそごうや航空会社スカイマークの事例は有名ですし、近年では自動車エアバッグの品質問題に直面したタカタの事例があります。
裁判所の管轄の下で手続きが進行するため、不正が入りにくいというのが最大のメリットです。手続きが妨害されたりすることもありません。
しかし、民事再生では、その申請が裁判所によって公表されてしまうデメリットがあります。また、裁判所は、全ての債権者を公平に扱うため、事業継続にとって重要な仕入企業にも迷惑が掛かります。社会的通念としては、民事再生は「倒産」と同等に取り扱われるため、社会的信用は大きく毀損し、これによる事業価値の低下も免れません。
同じく法的再生の手法である「会社更生」にも簡単に触れておきます。これは株式会社のみが利用できる手段であり、主に大企業による利用が想定されています。
裁判所が選任する更生管財人がリードする再建となり、自主的な再生を原則とする民事再生と異なっています。しかし、一定の条件を満たせば、経営者が管財人となることも認められています。
民事再生との大きな違いは、無担保権者のみならず担保権者の権利が制約されることです。民事再生でも担保権を保留させる申請は認められていますが、会社更生法では、更生手続き中にそもそも担保権実行が認められていません。事業継続を可能にする、よりいっそう強い内容と言えます。
会社更生は大企業向けの制度であるため使用頻度は少なく、日本航空やハウステンボス、ウィルコムなどが有名な事例です。
民事再生と同様、裁判所が介入して整理が行なわれます。会社経営も完全に移管されるので、手続きは公正で妨害も入りません。担保権が実行されないというのも、事業継続には大いに有利な点といえます。
しかし、会社更生も公表されるため、社会的通念としては「倒産」と同等に扱われます。少なくとも現会社の株価は大きく下落します。
私的再生とは、法的な債務整理によらない事業再生です。債権者との協議や、私的な債権者集会などにより再建案の同意を得つつ、事業の再生を図ります。
私的再生では、民事再生など法的手続と異なり、再生計画が成立するには債権者全員の同意が必要となるため、成立の見込みについて慎重に考える必要があります。しかし、法律で定められた手続きで債務整理をしないですむため、非常に柔軟性に富んでいます。
たとえば、債権放棄についても、銀行など金融機関に対して要請しても、事業継続をする上で重要な仕入企業に対しては要請を控える、といった措置が可能です。私的整理であれば、関係者だけの話合いによって行なわれるので公表が控えられますし、社会的信用を維持しながら再生をとげられます。
したがって、通常、法的再生より前に、まず私的再生の余地があるか先に検討されます。
法的再生と私的再生を同列に並べて比較検討する機会はそう多くはありません。私的再生が困難な厳しい状況において、私的再生を諦めて法的再生を選ぶか、私的再生に拘り続けるか、といった場合に限られます。
私的整理のメリットとしては、事業の規模や現状に応じて手続きを柔軟に変更できる点が挙げられます。また、社会的信用を含め事業価値の毀損を最小限に抑えられ、債権者も法的整理より多くの債権を回収できる可能性があります。
その一方で、1人でも債権者が反対していると、再生計画案が成立しないというデメリットがあります。また、裁判所のような公権力が介入しないため、手続きに不公正な振舞が紛れ込んだり、あらぬ妨害が生じたりする可能性があります。
私的再生には様々な手法があります。私的整理とは、債権者と債務者との話合いによる債権債務の処理のことなので、柔軟性に富み、その形は無数にあります。しかしその分、かえって交渉が進みにくいという側面があります。
私的再生の一つ目は「準則型」です。司法によらない私的整理でありながら、明白な規則に従うことで、債権者と債務者の交渉を進めやすくするものです。全国銀行協会や東京弁護士会をはじめとした有識者が作成した規則に従って交渉を進めます。
二つ目は「非準則型」です。事例の数を見るならば、そうした特別な規則を持たない「非準則型」が圧倒的に多いのですが、その理解を深めるためにも、まずは「準則型」を解説しておきます。
(a)私的整理ガイドライン
2001年に全国銀行協会などの金融機関や有識者により作成された私的整理(私的再生)に関するガイドラインであり、私的整理の準則、手続きの方法について定められています。このガイドラインは、その後に作成された様々な「準則型」のベースになっているもので、中心となる考え方や手順はこれに準じており、とても重要なものです。
しかし、中小企業には適さない内容や、主要債権者(つまりメインバンク)が債務整理の実行主体として大きな役割を担うところに特徴がありました。その結果として、実際の運用事例はさほど多くありません。
なお、私的整理ガイドラインは、2022年4月、中小企業の事業再生等ガイドラインとして中小企業に特化したガイドラインとしてブラッシュアップしており、この規則の運用は現在行われているところです。
(b) 中小企業再生支援協議会による支援協議会スキーム
私的整理ガイドラインを踏まえつつ、より中小企業の特性や地域の特性を考慮したものがこのスキームです。全国の中小企業再生支援協議会に持ち込まれた案件のすべてに適用されており、事例が多くてノウハウも蓄積されているところに特徴があります。
私的整理ガイドラインとの大きな違いは、債務整理の実行主体として、主要債権者が大きな役割を果たすのではなく、第三者となる中小企業再生支援協議会が担う点です。中小企業再生支援協議会は公的な行政組織なので、公正性が担保されており、法的再生に近い制度といえます。債務超過の解消も5年以内を目途としており、3年以内を目途とする私的整理ガイドラインより緩やかな制度といえます。
また、中小企業融資の多くに関与している信用保証協会を債権者として明確化しているのも特徴で、各都道府県の信用保証協会の承認を得やすい為、中小企業の事業再生に優れています。
なお、中小企業再生支援協議会は、2022年4月、中小企業活性化協議会に改組しており、同協議会で中小企業の事業再生支援業務は引き継がれてます。
(c) 特定認証ADR手続き
ADRとは裁判によらない紛争解決手続きのことです。公表の必要がないため、重要な取引先との関係を維持しやすい私的整理としての特徴を保持しながら、第三者的立場の組織がADR機関となり、裁判所に代わって債務整理を進めるため、公正性を担保しやすい制度です。
現在は、経済産業省が後援する事業再生実務者協会がADR機関となり、事業計画の検証や金融機関との調整を行なっています。
とくに上場会社は、上場の維持が可能で、近年では文教堂などの事例があります。他にも、「つなぎ資金」の借入れができる、債務免除に伴う税制上の優遇措置などの特徴があり、大企業を中心に活用されています。
(d) 地域経済活性化機構(REVIC)
企業再生支援機構を前身とする官民ファンドであり、経営人材の投入や投融資など総合的な再生支援を行うものです。金融機関への債権の買取りや、金融機関調整も行っており、これまで数多くの事業再生を実施しています。
地方の中堅企業、大企業を主な対象としており、大井川鐵道や熊本バスなど地域経済の基幹をなす企業の再生事例が有名です。
主な「準則型」は以上です。それぞれ定めた規則によって債権者と債務者の間の調整を行なって債務整理を進めていきます。
「非準則型」の私的再生は、債務整理の手続きについてこうした詳細の規則がありません。このことから、「純粋私的整理」と呼ばれることがあります。純粋私的整理は、債権法や会社法などの関連法規を活用しながら調整を進めるもので、一般に、難易度は高くなります。
しかし、「非準則型」とはいえ、私的整理ガイドラインの制定以降は、曖昧ながらも文書化されていない「ルール」が慣例的に共有されています。よって、とくに債権者と債務者との調整に大きな障害がないケースでは、実際的なコンフリクトが生じないため、ほとんどが純粋私的整理を用いた私的再生によって事業再生が進められるのが現状といって良いでしょう。
とくに中小企業の借入には信用保証協会が信用付与をしている場合が多いため、近年では信用保証協会が中心となって、債権者と債務者との調整を図っているケースも多く見受けられます。
つまり、従業員数が多く、債権額も大きく、債権者と債務者との調整に大きな問題があるケースだけが「準則型」によって再生が目指されており、多くの中小企業の事業再生においては、そうした詳細の規則を用いることなく解決しているのです。
M&Aとは、企業の買収や合併のことですが、事業再生の手法として、M&Aを利用する場合のほとんどは、買われる側(売り手)です。「事業再生の必要がある会社の事業に、買い手は現われないのではないか?」と思うかもしれません。
例えば、新しい事業を始めるにあたって少しでも早く収益化するのに、人材や設備が整った既存の事業を買い取る方が、育成等にかかる時間とコストを削減できます。また、既存事業を買い取り、自社のサービスと組み合わせることで新たな付加価値を生み出すことができれば、顧客やターゲット市場を拡大できる可能性もあります。
再生を目指す会社にとっては、ノンコア事業を買い取ってくれれば、残したいコア事業に、より多くの経営資源や事業の売却代金を投下できるため、事業再生が早く前進します。
また、自力再生を諦めて、第三者スポンサーに経営権を譲渡して再生を図るという道もあります。この場合、民事再生や中小企業再生支援協議会などを活用した債権放棄により、出資しやすい財務状況を作った上で実行されます。
いずれにせよ債務整理と合せて、M&Aは、事業再生の重要な手段です。
ここでは、M&Aによる事業再生の代表的な手法として「事業譲渡」「株式譲渡」「会社分割」「企業再生ファンド」について順に解説します。
事業譲渡とは、特定の事業部門の資産や負債を売却することを指します。収益化できていないノンコア事業部門の資産と負債だけを売却することによって、コア事業への経営資源の集中化による事業再生が期待できます。
事業譲渡取引では、個別に事業用資産や負債の売買を行うため、交渉や売買手続きが長期化しやすいという欠点があります。不動産などの売買にあたっては、不動産取得税や登記料などのコストもかかります。また、事業の買い手は、新たに取引先や従業員と契約し直さなければならず、許認可なども引き継がれないため、手続きに手間がかかるのもデメリットです。
しかし逆に、包括的に譲渡する取引ではないため、売買に適さない資産を柔軟に対象外にできますし、簿外債務を引受ける懸念がないのもメリットだと言えます。
事業譲渡とよく比較されるM&A手法に「株式譲渡」があります。株式譲渡とは、経営者の保有株式を買い手企業に売却して事業の一部もしくは全部を承継する方法であり、売買の手続きが比較的簡単であることから、中小企業のM&Aにもよく用いられます。中小企業の事業再生では、全株譲渡を前提に、現経営陣が経営権を手放すと同時に総退陣し、新しい経営体制に移行する例が見られます。
株式の売買であることから、買い手は包括的な権利を受けることができるため、従業員や取引先との契約について相手の同意を個別に得る必要はなく、許認可も承継されます。
しかし、社歴の古い老舗企業では、株式が分散して株主が不明になっているような例も多くあり、株式の買取りに手間が掛かることがあります。
会社分割とは、会社の事業をいくつかに分けて、元の会社から切り離す組織再編です。分割した事業は、新しい法人にする(新設分割)か、既存の会社の一部(吸収分割)とします。
会社分割は、会社法上の組織再編に該当し、債権者保護の手続きが必要です。つまり、債権者の合意を得ないと実行出来ないということになり、事前に金融機関など、債権者との調整が不可欠となります。
一方で、株式譲渡と同様、買い手は分割された会社の包括的な権利を承継できるため、取引先との契約について相手の同意を個別に得る必要がありません。ただし、許認可を新しい法人格で取得しなければならないケースもあり、注意が必要です。
会社分割は、事業再生の様々な局面で利用される手法です。代表的なのは、実質的な債権放棄を伴う第二会社方式です。
採算性の低い事業の資産と負債を新会社に移管して、特別清算などにより、既存の会社は解散させます。採算性の高い事業の資産と負債だけが残るため、安定した経営が期待できます。
企業再生ファンドは、投資家から集めた資金を元手として、銀行等から債権を買取ったり、企業へ出資を行ったりします。通常は、ファンド運用会社が企業再建の専門家を企業に派遣して、資金調達の見直し、不採算事業の売却、営業手法の改善、コスト削減など、総合的に企業再建を支援します。最終的には、株式公開や第三者への株式譲渡を行うことで収益を上げ、その収益を投資家に還元するものです。
中小企業の再生を行うファンドもあります。
経済的支援が必要な経営不振の中小企業に対して資金を提供します。ファンドから調達した資金を借入金弁済に充て、残債は債権放棄を求めるのです。私的な再生ファンドの他に、中小企業再生支援協議会などと連携をとる公的な再生ファンドも存在します。
銀行などの債権者からすると、一部の債権を一括弁済で回収できるため、債権放棄を行ないやすくなるメリットがありますが、ファンドから供給された資金は、数年後にリファイナンスしなければならないため、慎重な経営計画を必要とする手法です。手数料も決して低いものではありません。
また、新たな株主として一時的にファンドに株式を移譲し、その後、より相応しい買い手を探すことによって事業再生を目指すケースもあります。
事業再生の一連の流れについて、大まかに説明します。
なお、私的再生と法的再生の違いなど、選択する手法により所々違いがでてきます。すべてに適用できる流れではありませんので、ご注意ください。
まずは、苦境に陥った根本原因を解明し、現状確認を徹底します。
専門的には「窮境要因」と呼ばれる、経営悪化の「中核的な原因」を究明するのが必須のプロセスとなります。しかし同時に、そこから派生する「周辺調査」も重要です。
たとえば、過去の不動産投資が失敗し、苦境にある会社があるとします。この融資を受ける際に、連帯保証人として遠縁の資産家が含まれており、しかも、その連帯保証契約は、複数行から受けた融資のうち1行の最も古い融資口だけで、そのことを社長が失念していたらどうでしょうか。全債権者に債務免除を願い出るような場合、連帯保証責任が生じますから、放置しておくと、この遠縁の資産家にもその弁済請求が及びます。
こうしたケースでは、最も中核的な原因を究明するだけでは済みません。実行する前に、関連してくる可能性がある「周辺的な事柄」についても、網羅的な調査が必要です。これを「デューデリジェンス」といいます。デューデリをしないで、債権者と交渉をはじめるのは大きな事故につながりかねません。
デューデリと一口に言っても、財務面や事業面に限らず、必要に応じて法務面や税務面のデューデリジェンスなど、広範かつ多角的な調査が必要です。近年では、労務上のトラブルを抱える企業が増えており、労務デューデリジェンスが重視される傾向にあります。
もちろん大きな時間と労力が費やされるのは「財務面」と「事業面」に関する調査で、ここで「窮境要因」と言われる中核的な原因を特定します。これを把握することで、後のステップで作成することになる「再生計画」において、どんな取組み事項を含めるべきか、はっきりするのです。
またデューデリによって、どうしたら資金繰りが維持出来るか、その対策を検討することが可能になります。「銀行と交渉して借入金返済に猶予をもらえそうか」、「その交渉において注意すべきことは何か」、「他に支払を遅らせることができそうな債務はないか」、「逆に受取が遅れている売掛金などの債権はないのか」、こうした実態を明らかにします。
一時的な資金繰りの措置だけでなく、収益力を改善することによる抜本的な改善施策も、このデューデリジェンスの結果から分析、検討することによって導かれます。
デューデリと並行して重要なのは、「事業再生の目的」を経営者と共に探ることです。債務整理をした結果として、その会社、従業員や家族、経営者たちが「再生」しなければ事業再生ではありません。手段と目的を取り違えるべきではありません。
いったい何を「目的」として事業再生を目指すのか、これを探るための材料を把握することも大切で、これは客観的なリサーチというよりは、ヒアリングに基づいたカウンセリングに近いやり取りによります。
こうした「事業再生の目的」や「会社の実態」を把握したうえで、次のプロセスに移ります。
会社の実態を把握したら、次にどんな再生手法を選ぶべきかです。
しかし、法的再生と私的再生は、再生手法として同列に扱える選択肢ではありません。自社の置かれた状況、経営難といってもどの段階にあるのか、専門的な知見から「再生ステージ」を把握することが大切です。まだ私的再生を選べる状況なのか、それとも私的再生をあきらめて法的再生を前提に再生計画を組むべきか検討するのです。
とくに私的再生はバリエーションに富んでおり、一つ一つの手法に特徴がある上、様々な条件の組合わせで複雑化しますから、再生の手法は無数にあると言ってよいでしょう。複雑で難易度が高いものの、様々な状況や目的に合せて、柔軟に対処できるのが私的再生のメリットです。法的再生と異なり、その実行手順に厳密な定めのない、高度に専門化された領域となり事業再生の専門家が不可欠です。
逆に法的再生は、その実行規則が民事再生法や会社更生法に厳密に定められていますから、一部の例外があるとはいえ、私的再生のような大きな柔軟性やバリエーションがありません。この場合、法律を熟知する弁護士の関与が必要です。
いずれにせよ、置かれている会社の状況によって再生手法は制約されます。しかし、経営者本人や従業員、会社の将来を見通して、その制約からのベストな再生手法を導くことが重要です。
再生手法が決まったら「事業再生計画書」の作成に移ります。
これは事業再生のためのアクションプランと、数値計画をまとめたものです。主に「窮境要因」の特定と除去を中心として、今後3年から5年程度の改善行動を具体的に示します。
この事業計画では、とくに債務の弁済計画を詳細にまとめる必要があります。
事業面・財務面の計画はもちろん重要ですが、その結果、「いつ・誰に・いくら返済できるのか」を明示する必要があります。「事業再生計画書」は、金融機関やスポンサーとの交渉で用いられますが、特に債権者との交渉において弁済計画が非常に重要になるからです。
計画を実行するフェーズにおいて、計画が一部未達になる可能性がありますが、「弁済計画」が未達に陥ると、事業再生そのものが頓挫しかねません。そのためにも、会社の将来を考え、入念な計画を作成する必要があります。
事業計画の合意は、再生手法ごとに合意すべき事項や合意の取りつけ方に違いがあります。私的再生では全債権者の一致による合意が必要ですし、民事再生では債権者集会における投票によって採決が行なわれます。
いよいよ債権者によって合意された再生計画の実行です。
通常の再生計画で最初に着手されるのが、「キャッシュの流出を止めること」です。資金流出が続けば、再生どころか倒産しかねませんので最優先となります。
銀行など金融機関に協力を願い出て、リスケジュール(返済条件の緩和)を要請して返済額を減らしたり、不要不急の経費を削減します。生きながらえながら、収益性があり、将来性のある事業を残し、収益性が劣り、将来性のない事業から撤退していくのが「定石」となります。並行して、工場や事務のオペレーションを改善し、ムリムダを排除することで、収益力を強化することもあります。
ケースによっては、こうした改善行動の進捗を、銀行など債権者に対して定期的に報告しなければならない場合もあります。これはモニタリングといって、中小企業再生支援協議会が介入して実行するリスケ期間中には、熱心に行なわれます。
ビジネスモデルが古く、ターゲット市場の縮小が激しいような場合では、リスケジュールによる緩やかな改善計画に加えて、思い切った業種転換や業態転換が計画されていることもあります。
また、事業再生を行うためには、資金確保が欠かせません。
新たな融資による資金確保のためには、「事業再生計画書」をもとに、金融機関と交渉を行うことが必要です。しかし、私的再生であれ、法的再生であれ、通常は、新規の融資に応じてくれる金融機関はそう多くありません。したがって、事業再生では「自社で稼ぎだした資金を使って再生を進める」のが原則で、多くの再生計画は、その前提で立案されます。
もし計画が未達となり、資金繰りに難が生じると、会社存続が極めて厳しい状態に陥ります。この場合、再生計画に拘らず、すぐにでも第三者スポンサーを探す等、異なる打ち手が必要になります。状況次第で、私的再生から法的再生への切替え判断や、自力再生から第三者スポンサーによる再生への切替えなど、方針転換が必要です。
事業再生の計画立案・実行において、最も注意しなければならない点に、コンプライアンスがあります。事業再生は、ドラスティックな変革を伴うため、どうしても各種法令に関するリスクを抱えやすい傾向があります。しかも、限られた時間と予算制約の中で対処しなければならないため、リスクが増幅され、対処を難しくします。
まず、コンプライアンスの観点から難しいのは、人事労務関係の規則です。
事業再生の多くで、解雇を伴うリストラクチャリングが行なわれます。退職を促すにしても、希望退職を行なった後に退職勧告をするのが労働関連法の考え方ですし、退職金を規定で定められた金額(ときにはそれ以上)を支払うことも原則です。しかし、こうした原則が遵守できない場合に、どうしたらいいのでしょうか。事業再生の生の現場では、ギリギリの状況が珍しくありません。いや、むしろそれが普通だといって良いでしょう。
ギリギリの状況においても、当然ながらコンプライアンスは重要です。支払えない理由が法律に照らして問題ないものか検討を加える必要があります。中小企業の事業再生では、労働組合との調整がないケースがほとんどで、その点は負担が軽いものの、反面ブレーキが効かなければ訴訟に発展して問題を大きくしてしまうことがあります。こうした訴訟が、事業再生を遂げる上で大きな障害になることは言うまでもありません。
また、納税も重要です。
事業再生では巨額な資産・負債の移動を伴うケースが多いので、課税額も大きくなります。たとえば、債務免除益は課税対象であるため、うっかりすると納税資金が手当てできず、困ったことになるでしょう。繰越欠損金がないとした場合、仮に3億円の債務免除を受けたなら、原則として約1億円の納税が必要になります。
不動産の売買を伴うケースも多くありますが、譲渡所得税、不動産取得税などの他にも、登記料が発生します。担保設定をしたり、外したりするのにも登記料が必要です。社長が個人で所有している不動産などの財産を会社に移譲する場合も、譲渡所得税が発生します。税率も大きく、見逃すわけにはいきません。
事業再生は、原則として、資金繰りの厳しい会社が対象ですから、こうした納税資金は事業再生の大きな障害となります。しかし、コンプライアンスは事業再生において絶対的に重要です。これを軽視する経営者は、必要な支援を銀行などから得られないと考えておくべきです。
言うまでもありませんが、労務や納税などのコンプライアンスは事業再生にかかわらず、あらゆる会社経営において必須です。一方で、事業再生において独特なのが、連帯保証責任・株主責任・経営者責任です。これらは「責任」という言葉が示すように、多かれ少なかれ曖昧なニュアンスを含んでいますが、だからといって無いわけではありません。
むしろ、事業再生を遂げるためには、これらの責任から逃げないことが大切なのです。逃げずに、どのように責任を取っていくか、この構想が事業再生の成否を分けると言っても過言ではありません。逆に、逃げてしまうと、いつまで経っても問題が解決せず、再生に向かえないことになります。
連帯保証責任は、連帯保証契約に定められた経済的損失だけに対処すれば良いものなので、内容は比較的明確です。しかし、明確である分、対処をしっかりしなければ、逃れようがなくなってしまうところが特徴です。特に会社を残すために債務免除を要請しなければならないケースで、必ず問題になります。放棄してもらう債権の弁済責任は連帯保証人にありますから、事前に対処ができていないと、社長とその家族の生活基盤を脅かす大変な事態に陥ります。
株主責任は中小企業の事業再生においては、比較的問題になるケースは少ないものです。経済的には、株価の下落が、多くの中小企業の事業再生においてはその会社は債務超過なので、株価が実質0円になるという事実がその経済的責任の正体です。経済的には、株式会社など有限責任の会社であれば、それ以上の責任を負うことはありません。
株式には、上記の経済的権利の他に、経営者を選任するなど経営に携わる権利を含みます。それゆえ、後者において株主責任が最も大きく表れるケースは、経営者総退陣です。株主責任は、経済的には株価が0円であるためこの面では責任が追及されようがないのですが、社長など経営者としての立場を失うかたちで責任が追及されることがあります。
経営者責任はもっとも曖昧です。経営者責任は、株主に対する責任を含みますが、多くのケースで経営者と株主が同一なので問題になりません。株主が多くいる場合は、もちろん問題になりえますが、上場企業とは比べものになりません。
経営者責任として会社法が定めるものに、銀行、仕入先、顧客や従業員に対する責任がありますが、何をどの程度まで果たす必要があるのか明白ではありません。たとえば、連帯保証責任として破産をしてしまい、株主責任として全株を放棄して経営者から退陣してしまったとしたら、それ以上は経営者責任の取りようがありません。経営者責任とはそうした曖昧なものなのです。
しかし、曖昧だから対処しないでよいかと言えばそうではありません。大切なのは、逃げずに、経営者責任を取ること。そのために、どのように取るか、事前に検討しておく必要があります。責任を取る範囲を事前に検討して決定しておき、いざ責任を追及される段階に入ったら、その範囲で責任を取るのです。どれほど厳しく責任が追及されても、経営者も人間であることに変わりはありません。上記の破産かつ経営者退陣のケースでそれ以上の責任が追及され得ないように、果たしうる責任には限りがあるのです。
連帯保証責任・株主責任・経営者責任に対処することが重要なのは、実は事業再生の「目的」と深い関係があります。
繰り返しますが、銀行など債権者にとっては「債務整理」こそが事業再生の「目的」です。苦境に陥った会社に対する債権の多くが不良債権であり、それを適切に処理していくことは銀行経営にとって至上命題です。債務整理が銀行にとってすべてです。
しかし、債務者たる企業とその経営者、従業員にとっては「再生」こそが「目的」です。これを少し広げるなら、その会社を取り巻く地域社会や業界にとっての「再生」とは何か、までテーマとなりえます。
会社は再建できたけれども、その地域に失業者が激増したらどうでしょうか。経営者本人は自宅や家族を失った結果、自死に至る例は珍しくありません。そうした悲劇的な結末が待つ会社再建に、どのような意味があるでしょうか。もっと言うと、その会社がヤクザのような反社会的組織だったとしたら、逆にどうでしょうか。
ここで、道義的に何が正しいか、結論を下すつもりはありません。
しかし、いずれにせよ、再生という目的に至るまでに最も大きな痛手を負い、障害を抱えることになるのが経営者であることは明白です。連帯保証責任・株主責任・経営者責任の大きさに押しつぶされそうになっているかもしれません。経営者とて一人の人間です。負える責任には限界があるでしょう。
では、これらの責任にどう対処するのが良いのでしょうか。場合によっては、社長を交代しなければなりません。仮にそうしたとして、今後の人生を、経営者本人はどのように構想したら良いでしょうか。実は、「目的」に相応しい責任の取り方をすることが、事業再生の要諦なのです。
現実には、連帯保証責任は明確でも、経営者責任をはじめ曖昧な点が多く残っています。したがって、まず明確なものにきちんと対処しておくべきです。残りは無闇に恐れる必要はありませんから、工夫次第と言ってもいいかもしれません。限りある範囲の責任を果たせば良いのです。責任を取ることから逃げずに、事業再生の構想に組み込んで対処することの方が大切です。
事業再生と聞くと、「追い詰められて身動きが取れない」とか、「もう限界で打ち手がほとんどない」かのように感じるかも知れません。しかし、事業再生の手法とその組み合あわせは、文字通り無数にあります。
この事実は、行き詰まっている会社であっても、実はまだ多くの選択肢がありうること、その希望を示しています。しかし、正常な経営状態と比べると、銀行をはじめとした債権者のパワーが強く、経営の制約として大きくのしかかっていることもまた現実です。
とはいえ、債権者のパワーは、いつどんな状態でも同一ではありません。たとえば、月次の返済額の猶予が必要な状態と、債権放棄が必要な状態では、債権者の要求はまったく異なってきます。私的再生と法的再生でも、債権者の様子はまるで異なります。
したがって、事業再生のポイントのひとつは、自社の置かれた状況を適切に把握し、それに相応しい再生手段を選択することで、債権者のパワーをどうコントロールするかにあります。
しかし、自社の置かれた状況がどのような債権者の行動を誘発するのか、その状況に相応しい手段はどのようなものなのか、多くの経営者は知りません。事業再生を要するような経験は、たいていの経営者が初めてなので、検討がつかないのは当然です。
この専門性が高く、未知の領域であるところに「専門のコンサルタント」が必要な理由があるのですが、もっと重要なことは別にあります。
繰り返しますが、事業再生の要諦は、「連帯保証責任・株主責任・経営者責任」に対処することにあります。これこそが唯一の秘訣だ、と断定してもいいでしょう。そして、これらの責任を、事業再生の「望む姿=目的」に相応しいかたちで果たしていくことが大切です。
経営者であるあなた自身が、厳しい責任追及にあってもたどり着きたい「目的」とは何でしょうか。
その「目的」に相応しい状況を作り出すことが事業再生です。あなたの想いをぜひ、事業再生の専門家にぶつけてみて下さい。受け止められない専門家ではプロではありません。
事業再生の手法は無数にあっても、すべて手段に過ぎません。目指す「目的」のために、最善の手段を選び出し、望ましい状況を作り出すこと。事業再生のプロとしっかり話合うことで、現状から抜け出す糸口をつかんでください。
多様な業界経験と、豊富な実績をもった事業再生のエキスパートが、貴社をサポートします。
生井 勲Namai Isao
株式会社ポールロードカンパニー 代表取締役
エグゼクティブコンサルタント
1969年10月生。神奈川県出身の中小企業診断士。神奈川県中小企業診断協会、日本ターンアラウンド・マネジメント協会に所属。 学習塾チェーン、教育系フランチャイズ企業、大手運送グループにて、店舗運営やBPO事業の運営管理、経営企画など広範な職掌に従事した後、事業再生コンサルタントとして独立した。 独立後は、事業再生支援や再成長支援、M&Aアドバイザリーなど、苦境に陥った地域の老舗企業・有名企業を対象に、幾多の困難なプロジェクトに携わってきた。 こうした経験を元に、2019年に「ポールロード式再生メソッド」を開発して株式会社ポールロードカンパニーを設立、代表取締役に就任。現在は、同社の経営にあたるとともに、リードコンサルタントとして活動している。